V 製糸工程のあらまし −生糸を作るには−

 現在、国内で生産されている生糸の大部分は器械製糸業によるものであるので、ここでは図・4に示すような器械製糸工場における生糸製造工程の流れについて、主な製糸用語を紹介しながら解説し、製糸の作業にあたって常に念頭に置かねばならない製糸技術の目標について述べる。

1.生糸の作り方と製糸用語
  〔乾燥〕  製糸工場に入ってくる繭はほとんどが生繭であり、そのまま放っておくと繭の中のサナギが成虫(ガ)となって繭に穴をあけたり、汚したりして製糸原料としての価値は失われてしまうので、そのようになる前にサナギを殺すとともに、後で生糸にするまでの間にカビが出たり腐敗したりすることがないように乾燥し、水分を少なくしてから貯蔵する(繭を乾燥する工程を乾燥または乾繭といい、乾燥された繭も乾繭と呼んでいる)。
  〔選繭・合併〕  繭は昆虫の生産物であり、カイコの品種や個体、生産された環境などによって形や品質が異なる。そして、繭の中には繭を作った後に病気にかかって死んでしまいその液体がにじみだして繭層が汚れている繭(繭層の内部が汚れているものを内部汚染繭、外側が汚れているものを外部汚染繭という)や玉繭、繭層が薄い繭(薄皮繭)など製糸に不適当な繭が混入しているので、品質の良い生糸を作るにはあらかじめこれらの不良繭を選除する(これを選繭といい、選別された不良繭を選除繭または下繭、不良繭を除いた繭を上繭という)ことが必要であり、さらに目的とする量の品質の揃った生糸を一定期間安定して製造するために品種別や産地別等に区分けされてきた幾つかの荷口繭を一緒にして良く混合し均質化を図る(この処理を合併という)。
  〔煮繭〕  繭層内で繭糸は互いに接着しており、これを順序良<解きほぐすには接着を適当にやわらげることが必要である。そのため製糸工場では湯や蒸気を使って繭層の外側から内側までを均一に煮熟している。(この工程を煮繭といい、煮熟した繭をにまゆと呼んでいる)
  〔索緒・抄緒〕  煮熟した繭は繰糸機の索緒部に移し、高温の湯の中で索緒ぼうき(箒)によって表面を軽くこすって糸口を引き出す。この工程では最初に糸口がもつれた形で引き出されてくるが、この作業を索緒といい、1本の正しい糸口になるまで糸をすぐることを抄緒(しょうちよ)、引き出された正しい糸口を正緒(整緒とも書く)と呼んでいる。
  〔繰糸〕  このようにして正緒が出た繭は給繭機に移して繰糸機の繰解部(生糸を作る湯の槽)に運び、目的の太さになるように何本か合わせて図・5に示すような、一般に撚り(より、ケンネル機構ともいう)と呼ばれる仮り撚り装置を経て1本の生糸に集束されたのち、小枠(繰り枠ともいい、粋周は66cmまたは70cm)に巻き取られる。
 製糸工場で使われている繰糸機は自動繰糸機といい、繰解部で繰られている生糸が細くなったところに正緒が出ている繭を1粒ずつ自動的に補給している。繭糸が切れて一緒に繰られている繭の中から脱落することを落緒(らくちょ)、落緒した繭を落繭(らっけん)といい、新しい繭を補給することを接緒(せっちょ)という。落繭は落繭補集器で回収されて索緒部に送り返され、そこで索緒・抄緒が繰り返されて正緒が出たものから再び給繭機で繰解部に送られる。

  〔揚返し・仕上げ〕  小粋に巻き取った生糸が目的の重量(ほぼ210〜250g)に達すると小枠ごと繰糸機から外し、(かせ)またぱチーズ巻きの形に仕上げられる。綛仕上げの場合は揚返機(あげかえしき)で粋周が150cmの大枠に生糸を巻き返し、最初と最後の糸口がわかるように一緒にして給ぶ(緒留め、くちどめと読む)とともに、綛の形がくずれないようにあみそ(力糸)をかけてから生糸を外す。この工程を揚返しといい(再繰と呼んでいる工場もある)、できた生糸を綛と呼んでいる。綛の生糸は20〜24本を束ねて(かつ)とし、その6括をダソボール箱に包装する。チーズ巻の場合は小粋から生糸を直接にチーズ、ボビンに巻き取り(600〜700g程度)そのまま包装して出荷している。
 〔副蚕処理〕  繭糸の大部分は生糸になるが、選繭や繰糸段階で除外された繭や、繭から糸口を出すときにもつれた状態で引き出されて生糸にならなかったキビソ(緒糸ともいう)や最後に繰り残った繭層(ビス、ようしんなどとも呼ぶ)などは低質の生糸や絹紡糸(繭糸を短繊維にして紡績した絹糸)の原料となり、サナギも魚のエサに利用されるなど捨てられるものはない。そのため、索抄緒工程で出たキビソは枠から外して引き延ばして乾燥し、ビスは副蚕処理機でサナギと分離してから乾燥してともに絹紡糸工場などに、サナギは養鯉業者などに売却されている。

2.製糸技術の目標
 製糸を行う上で最も大切なことは、いかにして与えられた繭から目標とする品質のよい生糸をより多く、より早く作るかということである。この品質の良いものを作るということ、無駄を少なくして与えられた原料から良い製品をより多く作るということ、決まった時間内にたくさん作るということの品質・歩留り・能率の3つの成績は、一般の製造業にも共通した努力目標であるが、製糸業においては製品の価格に対する原料価格(繭価)の割合が他の製造業に比べて比較にならないほど高く、製造する生糸が高級衣料素材の原糸であるために品質の悪い生糸を作ってしまうと価値が低<なってしまうこと、生産の能率が生糸の製造コストに大きく影響することなどのために、これら3つの成績の確保は極めて重要である。
 しかし、例えば、品質のより良い生糸を作ろうとすれば品質を悪くする恐れのある部分は捨て、ていねいに繰糸しなければならないために、歩留りや能率をある程度ぎせいにしなければならない場合が多く、一方、生糸の歩留りを高めるには品質を悪くする恐れのある部分も捨てずに利用したり、無駄を出さないように注意深く繰糸するなどのために品質と能率の低下は避けられなくなるなど、製糸工程において品質・歩留り・能率の3者は互いに相反する性質を持っている。 したがって製糸を行うに当たっては、まず、製糸技術の目標を品質・歩留り・能率のいずれに置くかを明らかにしたうえで、いかにして他の2つの成績の低下を防ぐかということに最大の関心が払われている。
 (1)生糸品質
 品位ともいわれる。その主なものに、生糸の大さ(繊度)とそのバラツキ(繊度偏差糸むら)、(ふし。大きさにより小節中節大節および特大節などに分類されている)などの形態的なものと、生糸の強さ(強力)・伸び(伸度)や生糸を綛から巻き返したときの切断回数(再繰切断)など質的な面の品質がある。 これらは国が定めた方法によって検査が行われ、全ての成績が優れているものを5A格とし、以下成績が低下するにしたがって4A格、3A格、2A格、A格、B格、C格、D格、の8階級に分けて格付けが行われている。現在、わが国の器械製糸工場で生産されている生糸の40%近くは4A格であり、ほぼ35%が3A、ほぼ20%が5Aで、2A格以下はほとんど無い。このような生糸品質は原料繭の品質に左右されるが、選繭、煮繭、繰糸、揚返しなど製糸工程全体の技術の良否にも影響されることも多いので、原料繭の調整と、製糸条件の設定・管理には、細心の注意が必要である。
 (2)生糸の歩留り
 生糸量歩合または糸歩(いとぶ)、生糸量などといい、繭からとれる生糸の重量の割合(%)で表している。生繭の重量に対する割合で示すのが普通であり、乾繭重量に対するものは乾繭糸歩と呼んで区別してしる。このような歩留りの多少は原料繭の繭糸の重量割合(繭層歩合)によってほぼ決まるが、あとの煮繭や索・抄緒の技術の良否にも影響されるところが少なくない。
 (3)繰糸能率
 製糸工場で生糸を生産する能率を製糸工程の中心である繰糸の能率で表すことが多い。これを繰糸量または繰目(くりめ)といい、繰糸機の1釜(繰糸機の台数の単位で、生糸を20本繰ることができる規模。自動繰糸機は20釜または24釜で1つのセットになっている)、8時間あたりの生糸生産量を対釜繰糸量対釜繰目)、繰糸工1人、8時間あたりの生糸生産量を対人繰糸量(単に繰目ということが多い)といっているが、工場全体の生糸生産能率を表すには従業員数を生糸生産値数で除した値(これを対俵人員という)を用いている。
 このような繰糸能率は生糸の品質や収率と同様に繭糸のほぐれ方など原料繭の性状や煮繭・繰糸・揚返しの技術に影響されることが多い。繰糸機は、繭糸がきれいにほぐれずにかたまり状で引き出されるなど大きな節が出たり、繭が繰り終わりに近づき軽くなって生糸の中に引き上げられたとき(ようしん飛付き)などには繰糸が自動的に停止するようになっており、このような状態になることを糸故障という。この糸故障が多発するときは繰糸機の回転率が低下し、また繭糸のほぐれが悪く落緒が多発するときは索・抄緒が間に合わなくなって繰糸速度を低下させなければならなくなるなど繰糸能率低下の直接の原因となる。


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