稚蚕人工飼料育
1.飼料準備 | 5.配蚕 |
2.飼育室の防疫管理の方法 | 6.配蚕後の飼育取扱い |
3.飼育室の温湿度等の管理方法 | 7.飼育のあとかたづけ |
4.飼育方法 |
稚蚕人工飼料育における飼育環境及び飼育取扱いの適否は、そのまま人工飼料育の成否につながる。
したがって、人工飼料育は、清浄な環境条件を維持できる施設で行い、しかも作業従事者等による病原菌の持込みを防ぐことが必要である。
一方、温度・湿度・光線・気流など飼育環境や掃立・給餌・眠起の取扱い・配蚕など飼育取扱いの適否は、蚕の発育成長はもとより飼育労力に直接影響し、ひいては飼育経費をも左右するので以下の事項に留意し、適切な飼育環境の整備と飼育取扱いを行うことが大切である。
1 飼育準備
(1)空調機・飼育機等の点検整備
空調式飼育所では飼育機や給餌機はもちろんのこと空調機関係のボイラー、冷凍機、冷却加熱コイル、電磁弁、温湿度調節器等は点検と整備をしておくことが必要である。また、エアワッシャーの噴霧口のつまりやフィルターの目づまり等はいずれも温湿度調整能率を低下させるので、清掃のうえ整備しておくことが大切である。
一方、電床式等の飼育所では温度調節器やケーブル線等の点検をしておくことが必要である。なお、飼育機、給餌機等については予備の消耗部品をあらかじめ用意しておくことも忘れてはならない。
これら機器類の修理は、とかく日数を要することが多いので、掃立前には完全な使用体制がとれるよう、十分ゆとりをもった日程を組む必要がある。
(2)消毒準備
ア 掃立前の作業計画
掃立前に清浄な環境をつくるための作業は十分余裕のある計画のもとに行うことが大切である。天候によっては、日数不足を生じて作業がおろそかになったり、一部省略を余儀なくされ、消毒の不徹底の因にもなる。また掃立直前の消毒では消毒薬剤の臭気を除去する期間もなく、剤激臭の強い環境下で蚕を飼育することになる。したがって消毒後掃立までには蚕室蚕具の乾燥、臭気の除去には特に留意し、少なくとも掃立2日前くらいまでに飼育可能な環境に整備することが必要である。
イ 飼育所の清掃
前蚕期の終了後に、清掃、消毒を徹底しても、次の蚕期までの間に病原による蚕室蚕具の汚染が考えられる。特にこうじかび病菌のように材質内に侵入したり腐生生活をする病原菌はこの間に発育まん延する恐れがあるので、飼育室だけでなく、管理室、前室(脱衣室、シャワー室、着衣室を合む)、飼料保存室、物置等のすべての部屋及び飼育所の周囲まで徹底的に掃除をすることが大切である。
空調蚕室の場合は強力加圧式洗浄機等により天井、ダクト内まで十分に洗浄をする。なお、飼育機は専用の洗浄機で水洗いをする。
ホコリは細菌、カビ及びウイルス等の微生物の巣窟になるので床面や壁あるいは手のとどきにくい狭い所まで丁寧に取除く。
また、入工飼料のくずは床、機械等にこびりついていることがあるので、十分水洗いをするか拭きとることが大切である。
なお、掃き集めたホコリ等は飼育所周辺に放置することなく直ちに焼却する。
ウ 蚕具の洗浄
蚕具洗いは原則として、流水で行うのがよいが、水槽で行う場合には高度さらし粉液等(クライト、テトライト500倍、ケミクロン水溶剤は2,000倍)を入れて洗う。この場合時々水を取換える必要がある。洗いあげた蚕具は十分に乾燥させておく。
(3)消毒の方法
人工飼料育では特に清浄環境が要求されるので、徹底的に飼育所を消毒しておくことが必要である。その手順と方法は表W−1のようである。
手順 | 作 業 | 内 容 |
1 | 大 掃 除 | 蚕具搬出、飼育所内外の大掃除 |
2 | 蚕 具 洗 い | 蚕箔、蚕網、給餌用具、その他洗える蚕具全部 |
3 | 飼育所第1次消毒 | 飼育室、作業場、飼料保存室、管理室、外周などの散布消毒(ホルマリン2%、アリバンド500倍の調製液) |
4 | 蚕 具 消 毒 | 合成樹脂、鉄製蚕具類の散布消毒(ホルマリン2%、アリバンド500倍の調製液、又はサンマークV20倍液) 木、竹製蚕具類の浸漬消毒(ホルマリン2%、アリバンド500倍の調製液) |
5 | 乾 燥 | 蚕室全体の乾燥をはかる |
6 | 第2次消毒準備 | 蚕具収容(棚だし、ならべ)消毒器材の準備 |
7 |
飼育所第2次消毒 (仕 上 げ) |
くん蒸剤(ネオPPS)によるくん蒸消毒 |
8 | 乾 燥 | 蚕具類の乾燥を完全に |
9 | 掃 立 準 備 | 消毒蚕具の整理、掃立準備 |
ア 飼育所第一次消毒
日程にゆとりをもって飼育所全体に下記消毒剤を散布し徹底消毒する。
(ア) 薬剤はホルマリン2%液で界面活性剤(アリバンド)の500倍液を調製(所要液10gの場合、水9.46g、ホルマリン原液0.54g、アリバンド20gを入れ、使用前に十分撹拌する)するか、又は蚕室消毒用ホルマリン製剤(サンマークV)20倍液(所要液10gの場合、水9.5gにサンマークVを0.5g入れ、使用前に十分撹拌する)を調製する。
(イ)薬剤散布量は3.3u当たり3g(飼育室周囲の上面は3.3u当たり5g)を基準とする。なお、小部屋方式の場合は壁、天井、扉などを考慮して、蚕架を3.3uとして計算し散布する。また、出入口や下駄箱、蚕室周囲などにも十分に散布する。
(ウ) 各種蚕病病原に対しては薬液の浸漬消毒がその効果も高いので、まんべんなく散布ししかも長時間接触させておくようにする。しかし機械類のモーター、温湿度調節器等は消毒液が付着すると傷むので、あらかじめ薬液に浸した布で表面を拭きとっておき、散布時はビニール、防乾紙等で覆ってから散布する。
空調装置はダクトに消毒口を設け、送風ダクト、戻りダクト内に消毒液を洗浄を兼ねて十分に散布する。
湾岸後はダンバー等、外気の取入口を閉め、温風を通し室温を24℃以上にし、乾くまで屋内空気を循環させる。
イ 蚕具消毒
飼育用の各種蚕具類で、人工飼料育の場合、防疫上の観点から、木、竹製の蚕具類は使用しないが、やむをえず使う場合は浸漬消毒とし、合成樹脂、鉄製蚕具類は、飼育所内での散布消毒を行う。
(ア) 合成樹脂、鉄製蚕具類は洗浄後、十分に乾燥し作業場又は蚕室の床にならべてから消毒する。電床、土室の飼育室(セット内)では行わないこと。多量の薬液の除去は困難なので注意する。なお、薬液は蚕具にムラなく、しかもしたたり落ちる程度散布し、その後ビニール被覆をして15時間以上放置する。また、この蚕具消毒は、天候不順等の理由で十分な日程がとれない場合には飼育所第1次消毒と同時に実施してもよい。
(イ) 木、竹製蚕具類の浸漬消毒液は、ホルマリン2%液でアリバンド500倍液を調製(所要液1,000gの場合、水946gにホルマリン54g、アリバンド2kg)し、これをコンクリートの水槽又はビニールの水槽に入れ、この中に乾燥した蚕具を10分以上漬けて薬液を材質中に十分しみこませる。
浸漬を終った蚕具は水を切って引き上げ、蔭干してゆっくり乾かす。この作業はゴム手袋を使用する。
(ウ) 浸漬消毒に使用した廃液は絶対に排水溝などに流してはならない。消毒終了後は直ちに飼育所の周囲に散布するか、土壌浸透などの方法で処理し、魚類等に被害を与えぬように注意する。やむなく一時、液を残す場合は消毒槽全体に完全なフタを付け、あやまちの生じないように注意をする。
なお、飼育室の周囲への散布は3.3u当たり5g程度行えば地面消毒にもなる。
ウ 飼育所第2次消毒(仕上げ)
上記消毒後の蚕具類は、それぞれ使用する場所や保管場所に収容整理した後、仕上げ消毒をする。新しい防乾紙や蚕座紙等も蚕箔に収容し、飼育所全室とともに消毒する。
消毒の時期は、なるべく掃立の近くがよく、掃立2日前には終了することとし、薬剤はくん蒸剤(ネオPPS)を使用して6m3(約1立方坪)、又は飼育室1蚕架当たり25gをくん蒸する。この場合くん蒸剤(ネオPPS)はガス剤であるから、できるかぎり密閉条件が必要である。
ビニール蚕網、蚕座紙、防乾紙等は各10枚程度を蚕箔にのせ棚差しする。くん蒸の際は温度24℃以上、温度70%以上がよく、くん蒸後は4〜5時開放置する。
本剤は熱源の火力が強すぎると引火し易いので注意する。燃えると火災の危険もあり、効果も激減する。この点メタノールを熱源とした専用くん蒸器が便利である。
電床セット間のように棚下でくん蒸する場合には3〜4段は空けておくことが大切である。
くん蒸剤(ネオPPS)は蚕室や蚕具類等を濡らさないで済み、消毒時間も短かく臭気の発散も早いので、特に、飼料保存室の消毒に好適である。
(4)作業衣の消毒
飼育所出役者の飼育作業衣は通勤着と完全に区別して使用する。人工飼料育では作業衣にしばしば人工飼料が付着して汚れ易いので、作業終了後は毎日よく洗濯を行うことが必要である。このため、出役者1人に少なくとも2着の作業衣を用意する。
乾燥消毒した作業衣は整理して着衣室の戸棚等に入れておくことが望ましい。
なお、通勤着の脱衣と作業衣の着衣は決して同一の部屋で行ってはならない。
イ 消毒方法
使用した作業衣は乾燥殺菌を兼ねて、乾燥機付洗濯機により行うことが望ましい。
乾燥機付洗濯機がない場合は、洗濯した作業衣を着衣室でくん蒸剤(ネオPPS)によりくん蒸消毒する。着衣室に殺菌灯を設けておけばより効果的である。
ウ 消毒の回数
使用した作業衣は、毎回消毒するのが好ましいが、消毒施設、作業の内容等を考慮すれば、2〜3回使用後は必ず洗濯、乾燥消毒を行うこと。消毒しない場合は、使用後、着衣室で殺菌灯下におく。
2 飼育室の防疫管理の方法
一概に人工飼料の飼育所といっても、その施設内容はかなり異なる。しかし、いずれの施設においてもその防疫管理方法は変わるものではない。
蚕の飼育条件は高温多湿環境であり、これは微生物の繁殖にも好都合である。人工飼料育の場合は飼育中の蚕体蚕座の消毒は一般には行われない。それゆえ飼育室内は常に汚染しないように努めなければならない。作業者は常にこれらのことを考慮し、施設設備等を十分活用して室内の清浄を保ちながら、作業に当たらなければならない。
(1) 飼育期間中の防疫
稚蚕期の飼育期間は1〜2齢飼育では約8日間、1〜3齢飼育では約12日間であり、この間の飼育管理が蚕作を決定するといっても過言ではない。
飼育は温度は28℃、湿度は85%前後を目標とした環境の中で行われ掃立時に給餌された飼料はこの環境の中に配蚕までおかれるわけである。それゆえ病原微生物等の侵入には十分に注意しなければならない。
表W−2に飼育施設別の3齢末における微生物調査の実態を載せたが、配蚕までにはかなりの汚染は免れない。要するに少しでも飼育室内への入菌数を少なくし、実害のないよう努めなければならない。
ア 外温の低い春蚕期、晩々秋蚕期等は飼育室の天井その他に結露することがある。これが蚕座に落ちると、カビや絹菌の発生源となるので注意しなければならない。結露を防止するには飼育室を事前に保温し、後に加湿をするなどの配慮が必要である。
イ 自宅で壮蚕飼育、上蔟、収繭等蚕病に接する機会の多い人は出役してはならない。出役予定がある場合は家族内で作業分担等をして対応する。
また、出役時の作業衣は汚れていないものを着用する。見かけ上新しいというものではなく、よく洗濯され病原菌の付着の恐れのないものとする。
ウ 飼育所入口で備えつけの消毒液(ケミクロン1,000倍液、クライト200倍液、ピオチノンエース200倍液等)で手の消毒を行い、よく乾いた手拭で拭く。履物を整理し、靴下を脱ぎ、備えつけの消毒液を含んだ雑巾で足をよく拭く。スリッパ等は使用しない。出入りの際入口のドア等は開閉時間を少なくし、閉め忘れのないようにしなければならない。
エ 飼育所の周辺、飼育所内は毎日必ず清掃する。ゴミ、ホコリ等は病原菌の巣窟となるので徹底的に除去する。飼育所では敷物、座布団、靴下等の使用は禁止する。飼育所内の机、椅子、床等は薬液を含んだ雑巾で毎日拭き、ホコリ等を完全に除去する。コンクリートの部分は清掃後、消毒薬剤(クライト200倍、ケミクロン1,000倍液等)を散布する。
オ 消毒液は飼育所入口、飼育室入口、飼育室内等にはそれぞれ手の消毒用のもの、飼育室入口には長靴消毒用のものを備え、これらは毎目新しいものに取替える。また、飼育所入口の薬液雑巾は適宜取替える。消毒液は常に濃度を守らなければならない。薄くては効果はないし、濃過ぎると皮膚を痛めると思い敬遠され、実際に効果が少ない場合がある。これらの管理は当番者の日課とするか管理者が責任をもって行う。
(2) 飼育室への入室の注意
自動温湿度調整装置や除菌フィルター等を設置し施設が完備された飼育所であっても、入室時作業者が病原菌を特込んでしまえば目的は達成されないので、手足の消毒、シャワーの使用等を励行する。
ア 作業員数は機械給餌、手給餌によって異なるが、機械給餌の場合は一台の給餌に必要な人数から全体人数を割出し、手給餌でもその飼育量、作業場の広さ、作業時間等を考慮して必要最少限の人数とする。過剰の人員投下は防疫上、経営上からも慎まねばならない。
イ 脱衣室で着替えた衣類はロッカー又は脱衣カゴに入れる。脱衣カゴ、ロッカー等は消毒に耐えられる材質とし病原菌の巣窟にならないよう特に注意する。
ウ シャワーを浴びる際、作業衣類から外に出る部分は石けんを使いよく洗う。特に病原菌等が付着している恐れのある時は、頭髪、手、足等は石けんを使い洗い流す。タオルは1人1本の清潔なものを用意しておく。
エ 着衣室で作業衣に着替える。作業衣はセパレーツのもので、汚れが目立つ白がよい。帽子(白)は必ずかぶらなければならない。履物は作業場では水や電源による機械を使用するので、作業上保安上からも長靴がよい。長靴は汗をかき易いので少し大きめの方がよく、蚕期前に内側までよく洗浄消毒し、完全に乾燥させておく。
オ 長時間高温多湿の環境下での作業により汗をかく機会が多いので必ず手拭・ハンカチ等を1人1枚ずつ持って入る。
カ 入室前に必ず手の消毒、長靴の消毒を行う。
キ 外気がそのまま脱衣室から着衣室等内部に入らないように必ずドアを締める。
ク 飼育中は作柄第一主義とし、この間は見学者等の飼育室への入室は禁ずるべきである。
(3) 作業上の注意事項
作業はなるべく途中で休まずに一気に終わらせることが望ましい。また他の作業等で手が汚れた場合は、室内に備付けの薬液で消毒してから作業を行う。
ア 作業者は防疫及び作業能率の面から仕事を分担することが望ましい。給餌機への飼料の補給、補給餌、飼料の運搬等に携わる人は手袋を使い、決して直接飼料に素手で触れて作業をしてはいけない。手袋はポリエチレン製の使い捨てのものが望ましい。
イ 給餌機は給餌開始の1〜2時間位前に飼育室に搬入しておく。温度の低い部屋に置かれていた給餌機を急に高温多湿の飼育室に入れると表面に結露が生ずる。この場合は清潔な乾いた布で拭きとる。給餌前に給餌機の切削歯、その他飼料が接する部分及び部品等は消毒液を含んだ布で完全に消毒してから組立てなければならない。
ウ 包装飼料は飼料供給センター等から飼育所の保冷庫へ搬入する時に消毒液に浸し消毒するが、これが完全に乾いていない場合、また、保冷庫から高温多湿の飼育室に入れると表面等に結露が生ずる。これらを清潔な乾いた布等で拭きとる。
(4) 給餌後の作業
ア 給餌後は直ちに給餌機の上、その他に付着している残餌のかたずけを行う。
イ 給餌機の洗浄はかなり時間を要するので給餌後直ちに行う方がよい。給餌機の狭い部分にまで残餌が付着しているので、高圧洗浄機を使用して洗落すことが望ましい。界面活性剤(アリバンド1,000倍液を40g位用意)で洗うと、飼料の付着しているのがよく落ちる。その後十分水を使って狭い所までよく洗い洗す。
洗い終ったら水分を拭取り、なるべく水を落とすため給餌機を傾斜させておく。次回使用までに乾かないような場合は温風送風機等で乾燥させる。
ウ 飼育機では補給餌を行っている場所、配電盤等が特に汚れている。また、引き戸、ドアの持ち手等も汚れているので注意し、消毒液に浸した布でよく拭きとる。
エ 床面の洗浄、消毒液の散布
床面は飼料の付着が残らないよう十分散水しながら全面をブラシでこすり、水圧のある水で洗い流す。床にたまった水はホウキ、ゴム雑巾等で除く。その後消毒液(ケミクロン1,000倍液、クライト200倍液等)を全面に散布する。
オ 飼育作業後の不用物
飼育作業後の不用物、飼料クズ等の室外への持出しは、エアカーテン又は専用の投出口が付設してある施設はその場所から行うが、それらがない場合は入室順路を逆のコースで持出す。不用意に戸などを開けて外へ出してはいけない。室外へ持出し後は燃えるものは焼却し、残餌等は穴を掘って埋める。決して蚕室の近くに放置してはいけない。残餌の持出しにポリ容器を使用した場合は戸外で十分洗い、持込みの際にはシャワー室でもう一度洗い、薬液に浸してから使用する。
カ 終了後なるべく早い時期に作業衣の洗濯、長靴の洗い消毒を行う。作業終了後、着衣室、休息室、洗濯室等の清掃を行う。作業が全部終ったら飼育室を除き殺菌灯を点灯しておく。
(5) その他の注意事項
ア 消毒後、計器類、作業用具の追加、機械修理材料等やむなく搬入しなければならない場合、計器等はホコリをよく拭きとった後、アルコールに浸した布でよく拭きとる。大型の物は戸外でよく水洗いし、もう一度シャワー室で洗い流し、消毒液をかけて十分消毒してから搬入する。
調査場所 | 微生物分類 | 小部屋電床飼育 | 空調大部屋改造 | 空調大部屋新築 | ||||||
夏蚕 | 初秋 | 晩秋 | 夏蚕 | 初秋 | 晩秋 | 夏蚕 | 初秋 | 晩秋 | ||
飼育室 人 口 |
細 菌 | 154 | 120 | 83 | 182 | 198 | 126 | 31 | 36 | 56 |
コウジカビ | 0 | 2 | 13 | 2 | 14 | 6 | 0 | 0 | 0 | |
その他カビ | 16 | 12 | 9 | 45 | 88 | 51 | 1 | 6 | 2 | |
飼育室 | 細 菌 | 82 | ∞ | ∞ | 2 | 4 | 5 | 2 | 2 | 3 |
コウジカビ | 9 | 16 | 23 | 0 | 4 | 1 | 0 | 2 | 1 | |
その他カビ | 196 | 100 | 21 | 4 | 2 | 11 | 9 | 8 | 5 | |
作業室 | 細 菌 | 5 | 211 | 24 | 2 | 4 | 5 | 0 | 1 | 1 |
コウジカビ | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 | 1 | 0 | 0 | 4 | |
その他カビ | 7 | 24 | 0 | 4 | 2 | 11 | 5 | 3 | 12 |
イ 飼育施設全体についての汚染度合を知ることは、飼育所防疫面から大切なことであり、蚕期別、齢期別に調査をしておく。方法としては床面はスタンプアガー、気中菌はエアサンプラー等で行うとよい。表W−2は、人工飼料飼育蚕室で実用飼育をした時の、3眠配蚕直前の調査である。これらの蚕期の作柄は特に問題はなかったがこれで見ると、注意しながら入室しても3眠配蚕前には、飼育室にはかなり微生物が存在することがわかる。それゆえ常に微生物持込み阻止に細心の注意をはらわなければならない。
3 飼育室の温湿度等の管理方法
(1) 温度
桑葉育に比べ人工飼料育の飼育適温は各齢を通じて若干高い。稚蚕期の温度については、表W−3に示すように人工飼料育と桑葉育とでは温度の影響の程度が異なっている。すなわち人工飼料育でもまた桑葉育でも、温度が低くなるほど蚕の経過が延長し、かつ体重は軽くなっている。ところが経過が延長する程度は、両者の間でほぼ等しいが、眠蚕体重が軽くなる度合いは人工飼料育のほうがずっと大きい。3眠蚕体重についてみれば、人工飼料育と桑葉育の差は、31℃では小さく、28℃、25℃と低くなるにつれて大きくなっている。
飼 料 | 飼 育 温 度 | 経 過 時 間 | 眠 蚕 体 重 | |||
1〜2齢 | 3齢 | 1〜2齢 | 3齢 | 2 齢 | 3齢 | |
人工飼料 | 25℃ | 25℃ | 211時 | 110時 | 24.1mg | 145mg |
28 | 91 | 142 | ||||
31 | 89 | 153 | ||||
28 | 25 | 178 | 117 | 30.1 | 163 | |
28 | 90 | 169 | ||||
31 | 89 | 185 | ||||
31 | 25 | 174 | 116 | 39.1 | 186 | |
28 | 91 | 202 | ||||
31 | 88 | 233 | ||||
桑 葉 | 25 | 25 | 166 | 80 | 34.9 | 184 |
28 | 63 | 180 | ||||
31 | 61 | 181 | ||||
28 | 25 | 140 | 77 | 37.4 | 203 | |
28 | 63 | 198 | ||||
31 | 79 | 215 | ||||
31 | 25 | 134 | 79 | 47.7 | 207 | |
28 | 65 | 215 | ||||
31 | 65 | 244 |
壮蚕期における飼育温度の影響について調査した成績は表W−4、5のとおりである。4齢についてみると、経過は人工飼料育と桑葉育はともに温度が低くなるにつれて延長しているが、人工飼料育の4眠蚕体重は20〜30℃の範囲では高い温度ほど重くなり、桑葉育で28℃より24℃が重くなっていることと相違している。5齢期については表W−5にみられるように、20〜30℃の範囲では温度が低くなると1〜4齢のときと同様に経過は延長するが、繭層重は20〜25℃のほうが30℃より重くなっている。
飼 料 | 飼 育 温 度 | 経過時間 | 4眠蚕体重 |
人工飼料 | 24℃ | 139時 | 855mg |
28 | 119 | 923 | |
桑 葉 | 24 | 120 | 982 |
28 | 94 | 960 |
齢 | 飼育温度 | 摂食経過 日 数 |
乾 物 食下量 |
乾 物 消化量 |
4眠蚕 体 重 |
繭層重 |
4 | 20℃ | 5.5日 | 0.389g | 0.174g | 0.95g | −cg |
25 | 4.0 | 0.440 | 0.194 | 0.97 | − | |
30 | 3.5 | 0.545 | 0.273 | 1.04 | − | |
5 | 20 | 9.0 | 3.93 | 1.67 | − | 37.5 |
25 | 7.0 | 3.97 | 1.61 | − | 37.8 | |
30 | 6.0 | 3.97 | 1.60 | − | 35.4 |
このように人工飼料育における飼育温度に対する蚕の反応は、桑葉育の場合よりかなり鋭敏であり、かつ低い温度は特に1〜4齢期の成育にとって好ましくない。換言すれば人工飼料育は温度に対する依存性が桑葉育よりも高いといえる。
人工飼料育の飼育適温は桑葉育に比べて高いが、その原因の一つに蚕体温の違いが指摘されている。図W−1に示すように、同一室温のもとで人工飼料育蚕の体温は桑葉育蚕のそれより低く、また気流のあるときは更に低くなる。これは給与飼料の温度が気化熱によって低下し、蚕体温に影響したものである。したがって、人工飼料育ではその差に相当する温度だけ室温を高くする必要がある。なお、上述したような温度の低下に伴う人工飼料育蚕の体重増加割合が一段と小さくなる現象には、蚕体温の差以外の要因も関係している。
このように飼育適温の範囲は人工飼料育のほうが桑葉育より狭い。稚蚕人工飼料育の飼育適温は1〜3齢を通じて28〜30℃であって、蚕座面上に気流がある場合は、この範囲のうち高い温度のほうを、また齢が進むにつれて低い温度のほうを採用するのが良い。
(2)湿 度
人工飼料育における湿度保持の主な目的は飼料の乾燥を防ぐためである。蚕体重の75〜87%は水分であり、この水分生理が円滑であるかどうかは蚕作に影響する。また飼料水分が適切であるかどうかは蚕の食下量にすぐに影響を及ぼす。更に現行の稚蚕人工飼料育では、給餌回数を少なくして飼育労力を節約することに一大利点がある。このような視点から飼料の乾燥を防ぐよう心掛けなければならない。温度をやや高めに保持するとともに、飼料の乾燥に気流が大きく関与するから、この両者の兼ねあいに留意する必要がある。
表W−6に人工飼料育における湿度と気流が飼育経過に及ぼす影響について調査した成績を示した。ここでは経過の遅速を就眠率で示しており、この率が高いほど経過時間が短く、蚕の成育や揃いも良好であった。この表によると、湿度95%で気流がゼロの状態では就眠率が低く、蚕の成育には不適当な条件であることがわかる。しかし温度が90%を超えても秒速5〜10cmという僅かな気流があれば蚕の成育は良好になる。また湿度の低い75%においては気流ゼロの状態でかえって蚕の成育が良好で、気流が毎秒10cmになると飼料の乾燥が早く、低い就眠率を示した。
齢期 | 湿度 | 気 流 (cm/秒) | |||
0 | 5 | 10 | 平均 | ||
1齢 | 75% | 70.3% | 69.0% | 65.3% | 68.2% |
85 | 71.0 | 68.0 | 70.0 | 69.7 | |
95 | 48.0 | 64.0 | 67.7 | 59.9 | |
平 均 | 63.1 | 67.0 | 67.7 | − | |
2齢 | 75 | 73.0 | 68.0 | 66.0 | 69.0 |
85 | 75.3 | 76.3 | 75.0 | 75.6 | |
95 | 48.0 | 76.3 | 75.0 | 63.4 | |
平 均 | 65.6 | 70.7 | 72.0 | − |
人工飼料には保水のために寒天、澱粉などが加えてあることが多く、このような成型剤の種類によっても、飼料の保水力に差があって、飼育湿度はこれらとも無縁ではない。現在の一般の空気調和装置では、湿度を90%以上に保つことは無理のようであるし、かつ飼育室内では温湿度調節のために絶えず空気が流れている。人工飼料育で蚕箔によって蚕の成育にバラツキがある場合には、飼料の乾燥が関係していることが少なくない。
以上のような各種の条件を考慮した上で、人工飼料育における飼育湿度を総括すると、1〜3齢を通じて摂食中は85%程度に保ち、大半の蚕が就眠すると湿度を65%程度にさげ飼料の乾燥をはかるのがよい。この場合、気流の強さと流れの道についてあらかじめ調査し、蚕座面で毎秒10cm以上の空気の流れのあるところでは、障壁を設けるなどして毎秒10cm以下になるよう工夫する。
(3) 空気の汚れ並びに気流
新鮮な空気は容積比で窒素78.1%、酸素21.0%、炭酸ガス0.03%以内、水蒸気4%以内等から成り立っている。蚕を飼育しているとこれらの外に蚕の糞尿からアンモニアガス、補温方法によっては燃料から一酸化炭素、亜硫酸ガスなどが発生する。これらによる空気の汚れが蚕に及ぼす影響は30℃以上の高温において大きい。
炭酸ガスが蚕に及ぼす影響は、かつて蚕作が不安定であった頃には1%以上になると悪影響が現われていたが、現在のような徹底した消毒のもとでの飼育法においては2%までは安全であるといわれている。人工飼料育では桑葉育と異なり、発生する炭酸ガスのほとんどは蚕の呼吸のみであるから、一般の飼育法においては、本ガスの蚕に及ぼす影響は特に留意する必要がない。
アンモニアガスは空気中に0.5%以上合まれると蚕は生存を続けられないが、人工飼料育では問題になっていない。
空気が生物にとって快適であるかどうかは主として空気の清潔度、温度、湿度、気流の4条件の総合化されたもので決定される。そしてこの4者のうち気流が他の3者の調節に重要な役割を果たしていることは、先に温度と湿度のところで述べたとおりである。ただ、人工飼料育においては蚕は毎秒10cm以上の気流にあうとこれを避ける傾向があり、「蚕寄り」の原因の一つになるから注意したい。
(4) 光
人工飼料育における明条件は、桑葉育の場合よりもはるかに強く影響する。現在、稚蚕人工飼料育に関する飼育標準表などの飼育指針はいずれも暗条件を指定しているが、それは次のような理由によっている。
人工飼料育で暗飼育をする最大原因は光に対する蚕寄りである。桑葉育においては、強い光の場合はこれを避けて蚕寄りをするが、150lux以下程度の光では給与桑が新鮮な間は蚕寄りは緩慢である。しかし人工飼料育では容易に蚕寄りを題こす。蚕寄りは給餌前の蚕座手入れを必要にし、また給餌回数の少ない飼育法では蚕の成育不揃いの原因になる。一定の明条件のあるほうが蚕作に好結果が期待できるけれども、現状では蚕寄りを防ぐために暗条件とするのが無難である。
次に人工飼料育において光条件が蚕に対してどのように影響するかにつき、育蚕技術に関連のある事柄について要約する。
光条件が蚕に及ぼす影響は、蚕に対する直接の場合と、光で変質した飼料を食下して蚕が影響をうける場合とがある。この二つを分離して検討することは困難であるが、最近の試験成績を総括すると次のようである。
まず、飼料の変質に及ぼす光の影響であるが、これには飼料組成と光の強さとが関与している。飼料組成の中では現在のところ大豆油が注目されている。人工飼料組成としての大豆油は蚕の成育に必要な物質であるが、これが光により酸化変質して飼料価値を低下させる。光の強さは200lux以上になると飼料価値の低下速度が早まる。したがって実場面では、飼料調製にはできるだけ露光時間を短くするようにし、照度も200lux以下に制限するように心掛ける。また飼育中の光条件については、給餌回数の少ない飼育法では、できるだけ暗条件に保つのが無難である。
次に、光条件と実用的諸形質の関係において、表W−7に稚蚕人工飼料育における光条件の影響を調べた成績の抜粋を示した。
光 条 件 | 3眠蚕体重 (対100頭) |
4齢起蚕率 | 減 蚕 歩 合 | 繭 重 | |
1〜3齢 | 4〜5齢 | ||||
全 暗 | 19.96g | 93.3% | 4.4% | 2.8% | 1.91g |
6時間明・18時間暗 | 19.50 | 93.9 | 3.7 | 2.6 | 1.90 |
12 〃 ・ 12 〃 | 19.68 | 94.2 | 4.0 | 2.7 | 1.89 |
18 〃 ・ 6 〃 | 22.19 | 92.5 | 4.2 | 3.1 | 1.93 |
全 明 | 27.86 | 85.9 | 4.9 | 4.2 | 2.01 |
これによると、3眠蚕体重、減蚕歩合、4齢起蚕率、繭重は1〜3齢中の光条件によって影響をうけ、しかもこれらの形質間に互いに関連のあることがうかがえる。すなわち、光条件が6時間明・18時間暗の区において3眠蚕体重は最も軽いが、減蚕歩合は最低値を示している。そしてこれより明の時間が長くなっても短くても、蚕体重は重くなるが、減蚕歩合も多くなって、全明区において3眠蚕体重と減蚕歩合はともに最大値となっている。飼育経過時間は表示しなかったが、3眠蚕体重が重い区ほど延長しており、経過が長くなるほど食下・消化量の多くなることを示した。蚕の揃いについては4齢起蚕率でみると、3眠蚕体重が重くなるにつれて起蚕率が低下しており、不揃いになることがわかる。更に表W−7は4齢以降桑葉育に移したにもかかわらず、1〜3齢人工飼料育中の光条件が、4〜5齢減蚕歩合や繭重にまで影響していることを示しており、稚蚕期の飼育条件が重要であることを知ることができる。
他の調査によると、掃立時の明条件は毛振るい率を向上させることが明らかにされているが、現行の交雑種は人工飼料に対する摂食性が良好であるから、これについては特に留意する必要はなさそうである。
蚕を上手に飼う方法は、眠を揃えることに集約されることは人工飼料育においても同様である。光条件の成績からは、1日のうち6時間前後明条件にし残りを暗にすると、繭はやや軽くなるが、眠はよく揃い、減蚕歩合は低い。しかし、蚕寄りやそれに件う作業を勘案すると暗飼育が現在のところ、ほぼ妥当な線といえよう。
以上のほかに、人工飼料育では光条件によって眠性や化性に変化の生ずることもあるので、光線管理には注意が必要である。
4 飼育方法
(1) 掃 立
人工飼料育における掃立作業は、多くの労力を要するとともに、適正を欠いた場合は飼料への摂食に影響して、蚕の発育が乱れる原因にもなる。したがって、作業が省力的で蚕の飼料への摂食が良く、しかもそれぞれの飼料形態・飼育形式に適した掃立方法を採用することが必要である。
蟻蚕の飼料への摂食は、孵化当日10時頃から翌日10時頃までの範囲では、孵化後の経過時間が長いほど良くなるが、その反面、稚蚕の成長に若干悪影響を及ぼすことがある(表W−8、9)。 したがって、掃立は孵化当日の午前中に行うのが一般的ではあるが、掃立当日の作業手順や配蚕時刻などの関係から、これを遅らせる場合でも14時頃までに行うのが安全である。
掃 立 時 刻 | 毛 振 る い 率 | |
日124号×支124号 | 錦秋 × 鐘和 | |
1 孵化当日10時 | 100% | 88% |
2 孵化当日14時 | 100 | 91 |
3 孵化翌日10時 | 100 | 98 |
掃 立 時 刻 | 稚蚕期 飼育日数 |
3眠期 蚕体重 |
4齢起蚕の揃い | 稚蚕中 減蚕歩合 |
||
起 蚕 | 眠 蚕 | 遅 蚕 | ||||
1 孵化当日10時 | 13日04時 | 147mg | 99.4% | 0.2% | 0.4% | 0.4% |
2 孵化当日14時 | 13. 00 | 150 | 99.0 | 0.4 | 0.6 | 0.2 |
3 孵化翌日10時 | 13. 04 | 149 | 99.2 | 0.2 | 0.6 | 1.0 |
掃立時、催青容器の上下すなわち覆紙と敷紙に付着している蟻蚕の数に7対3以上の片寄り(写真W−1)が生じると発育が不揃いになることがあり(図W−2)、これを是正するためのむら直し作業には多くの労力を要する。蟻蚕の片寄りを防止するため、催青容器へ蚕種を収容する際に蚕種と一緒に径4mmのスチレン粒を隔さ材として蚕種1箱当たり10〜20個入れたり(図W−3、写真W−2)、掃立当日の点灯時刻を調節することによって効果をあげている事例もある。
なお、掃立に先立って空調機は掃立前日から運転し、計器類の点検を行うとともに、目標温湿度を安定して得られるよう調整する。
また、蚕箔には消毒した蚕座紙、防乾紙を敷き、飼育室の温湿度に十分なじませておくとともに、掃立作業を円滑に行うため、あらかじめ作業内容と手順を検討し、これを十分理解しておくことが必要である。
ア 短ざく状切削給餌
(ア) 蟻蚕の上から給餌する掃立方法
a 図W−4に示すように、催青容器に敷紙・蚕種・覆紙の順に収容し、おさえ枠でおさえて催青したものをセットのまま取出して、蚕座の中央を境に敷紙と覆紙とを両側に開き、糊しろにあたる部分を重ね合わせ、その上に直接給餌する(図W−5)。
なお、1セット(覆紙・蚕種・覆紙)に0.5箱分の蚕種を収容した場合は2セットで掃立時の規定蚕座面積とほぼ同じ大きさになる(図W−5)が、1箱分の蚕種を1セットとして掃立てた場合は、掃立時の規定蚕座面積より狭くなるので、当日の午後むら直しと拡座が必要である。
b 糸網・穿孔紙を使用して催青した場合(図W−6)は、催青容器から蟻蚕の付着した覆紙(A部)、糸網・穿孔紙(B部)、敷紙(C部)の3区分に開き、多少間隔をあけて掃立時の規定蚕座面積になるように並べ、その上に直接給餌する(図W−7)。特に、自動給餌した場合は、蟻蚕のいないところにも飼料が落下するので、できるだけ早い時期にむら直しをすることが必要である。
c 糊付け台紙を用いて催青した場合(図W−8)は、覆紙と台紙とを両側に開き、その上へ直接給餌し(図W−9)、掃立後、必要に応じてむら直しを行う。なお、糊付け台紙1枚に0.5箱分の蚕種を収容すると、覆紙と台紙を広げた大きさが、ほぼ掃立時の蚕座面積になる。
(イ)飼料の上へ蟻蚕を払落とす掃立方法
a 掃立時の規定蚕座面積に対し、必要量の飼料を切削散布し、その上へ催青容器(図W−10)、又は糊付け台紙で催青した蟻蚕を払落とす(図W−11)。 この場合、蟻蚕が均一に散らばるように払落とすことが必要であり、蚕寄りが生じた場合は、蚕の発育を揃えるうえからむら直しを行う。
b 周囲に散らばった蟻蚕は羽箒で掃寄せ、塊って落ちた卵殼は蚕座の周囲に移し、卵殼についた蟻蚕の飼料への移行を容易にするため、その上へ軽く切削飼料を散布する。
イ 棒状切削給餌
(ア) 掃立時の規定面積に棒状飼料をできるだけ均一に散布し、その上へ催青容器と覆紙に付着した蟻蚕(図W−10)を卵殻ごと払落とす(図W−12、写真W−4)。
(イ) 周囲に散らばった蟻蚕は、羽箒で掃寄せるととともに、掃立後、蟻蚕のむらが生じた部分や餌と餌との間隙が広すぎて蟻蚕が寄付けないような部分、あるいは卵殻が塊って落ちた部分には飼料への蟻蚕の移行を容易にするため網状の切削飼料を散布する。
ウ 平板状下方給餌
(ア) 空の飼育トレイに1〜2齢の餌を平らに広げ、もし凹凸があれば、消毒済みの「のし棒」等で平らにしてから上面フィルムをはがし、その上に清浄な蚕種から孵化した蟻蚕をなるべく均等に、餌全面に広がるように払落とす。その上に凹凸のある面を上にして飼育網又は六島右穴あきフィルムをのせる
(図W−13、写真W−5)。
(イ)天幕装置における掃立作業は、蚕寄りを防止するため飼育棚の上部から行い、数段ごとに棚カバーをおろし、光線が当たらないように注意する。
エ 網付き水戻し給餌
(ア) 催青容器から覆紙を取出し、蚕座に催青容器と覆紙を並べて配置し、その上に水戻しをした網付き帯状飼料を餌面を上に網面を下にしてのせる(図W−14、写真W−6)。なお、催青容器は蟻蚕が飼料へ移行した後、できるだけ早く取除くことが望ましい。
(イ) 飼料の水戻しは、規模が200箱程度までは手動式水戻し機を、それ以上の場合は自動式水戻し機を用いると飼料水分の適正化を図るうえからも、また作業能率を高めるうえからも有効である。
(2)給餌方法
大量飼育における給餌は、平板状・網付き状水戻し飼料などを除き、給餌機を用いて行う(写真W−7、8)が、少量飼育又は補給餌などは給餌板(切削板)を用いる(写真W−9)。
給餌量や給餌時期が不適当であったり、給餌むらがあると、蚕の成育が不揃いになり、育蚕労力や飼料代にも直接影響を及ぼして飼育経費の負担増加につながる。また、過度の厚飼いや薄飼いも蚕の発育・成長はもちろんのこと、給餌量、給餌労力あるいは飼育施設の利用効率を左右する。
したがって、それぞれの飼育標準表などに示された適正な給餌量、飼育密度を厳守することが大切である。
給餌作業は、高温多湿の蚕室内で、しかも飼育規模によっては長時間にわたって行われることになるので、防疫管理のうえから作業者は汗を蚕座に落とさないよう注意するとともに、蚕座上での無駄な会話を慎む。
飼育に当たっては、給餌した飼料の乾燥、特に毛振るい頃までの飼料の乾きと2齢盛食期以降の座むれに注意するとともに、蚕の発育状況を十分に観察し、状況に応じて温湿度管理や給餌時期の適正化、更には給餌むらや蚕寄りの修正など、速やかに適切な処置をとることが桑葉育の場合に比べて極めて重要である。
ア 短ざく状切削給餌
(ア) 給餌機の導入に当たっては、使用する飼料、飼育規模、作業人員などを十分考慮して現場に適した機種を選定する。
(イ) 給餌機の使用に当たっては、規定量が正確に給餌できるよう前もって蚕箔の移動速度に合わせて給餌機の給餌速度を調整する。
(ウ) 少量飼育又は補給餌において給餌板を使用する場合は、規定蚕座面積に規定量の飼料が均一に給餌できるように給餌板にかける力の具合を調節しながら適正な飼料の厚さや長さに切削することがポイントであり、それには若干の習熟が必要である。
(エ) 給餌量と蚕座面積は、相互に密接な関係にあるので、飼育標準表の基本を厳守する(表W−10)。特に、掃立時及び1齢2回目(3日目)の給餌において、規定の蚕座面積に対して給餌量が多すぎたり、給餌むらが生じたりすると、埋没蚕や斃死蚕が発生するので十分に注意する。
飼料の種類 | 1 齢 | 2 齢 | 3 齢 | |||
給餌量 | 蚕座面積 | 給餌量 | 蚕座面積 | 給餌量 | 蚕座面積 | |
短ざく状切削飼料 (シルクタイ ト) |
0.9kg | 0.40u (0.72) |
2.9kg | 0.81u (1.40) |
10.0kg | 1.90u (2.10) |
〃 (くわのはな) |
1.0 | 0.42 (0.72) |
2.6 | 0.83 (1.60) |
10.0 | 2.20 |
〃 (ビタシルク) |
0.9 | 0.39 (0.52) |
2.8 | 0.77 (1.17) |
10.0 | 2.88 (3.24) |
〃 (クロレラ配合飼料) |
0.9 | 0.30 (0.54) |
2.9 | 0.80 (1.44) |
10.0 | 1.90 (2.40) |
(オ) 蚕座の周辺部は乾燥し易いので、給餌は規定蚕座面積より若干広めに行い、給餌後に羽箒で掃寄せて周辺部を少し厚く盛り上げる。なお、給餌した飼料の乾燥を防ぐため、必要に応じて防乾紙を被覆する。
(カ) 給餌機、羽箒、はし等、給餌作業に使用した器具類は、残餌が付着したままで放置しておくと、カビなどの発生につながるので、作業が終了した時点で直ちに洗浄し、消毒液に浸漬するか、あるいは消毒液に浸した布等で表面を拭いておく。
イ 棒状切削給餌
(ア) 給餌は棒状切削用の給餌機を用いて行うが、規定量を正確に給餌できるように、前もって蚕箔の移動速度に合わせて給餌機の給餌速度を調整する(表W−11)。
飼 料 | 1 齢 | 2 齢 | 3 齢 | |||
給餌量 | 蚕座面積 | 給餌量 | 蚕座面積 | 給餌量 | 蚕座面積 | |
棒状切削飼料 (モ ー ラ ス) |
1.2kg | 0.25u (0.54) |
2.8kg | 0.70u (1.00) |
11.0kg | 1.60u (2.24) |
(イ) 餌と餌との間隔が極力均等になるように給餌する。飼料間が1cm程度であれば、蚕の餌への移行も容易であるが、特に掃立において餌と餌との間隔が広すぎて蟻蚕が寄付けないような部分が生じた時は、給餌板などを用いて切削飼料を補給餌する。
(ウ) 1齢2回目(3日目)の追給餌は、給餌板などを用いて切削給餌を行う。また、2齢2回目(3日目)の給餌量は少ないので、機械給餌により薄い棒状飼料を給餌する。
(エ) 給餌機など、給餌作業で用いた器具類の洗浄・消毒については、80ページ−(カ)の項を参照のこと。
ウ 平板状下方給餌
(ア) 3齢餉食時の給餌に当たっては、空の飼育トレイに所定の平板飼料を置き、その上に蚕の付着した飼育網又は穴あきフィルムを飼料に密着するようにのせる。また、3齢2回目の給餌は、平板飼料をそのまま飼育網又は穴あきフィルムの上にのせるか、あるいは切削給餌で行う(表W−12)。
飼 料 | 1 〜 2 齢 | 3 齢 | ||
給餌量 | 蚕座面積 | 給餌量 | 蚕座面席 | |
平板状飼料 (稚蚕飼料グンゼ・タケダ) |
2.30kg | 0.88u | 7.04kg | 1.77u |
(イ) 平板状飼料の上面フィルムをはがす場合は、飼育トレイの上に置いた時に餌に凹凸のないことを確かめ、もし凹凸があれば「のし棒」等で平らにしてから、上面フィルムに飼料が付いてこないように注意しながらはぎとる。
(ウ) 飼料の表面に水分が浮き出たような場合には、10〜20分ぐらいそのまま放置して水分を発散させてから用いる。
(エ) 平板飼料の上に蚕を均一に分布させ、更に催眠期における飼育網又は穴あきフィルムヘの這い上がりを良くするためには、飼育トレイ、飼料(蚕座)、飼育網のそれぞれが平らで密着していることが必要である。
(オ) 給餌作業で使用した器具類の洗浄・消毒については、80ページ−(カ)の項を参照のこと。
エ 網付き水戻し給餌
(ア) 網付き飼料は、掃立、2齢餉食、3齢餉食時に使用する。この場合、掃立(76ページ−エを参照)に準じて水戻しを行い、飼料面を上に、網面を下にして給餌する(表W−13)。
飼 料 | 1 齢 | 2 齢 | 3 齢 | |||
給餌量 | 蚕座面積 | 給餌量 | 蚕座面積 | 給餌量 | 蚕座面積 | |
網付き水戻し飼料 (ビタミルク) |
網付き 2枚粒状 150g |
0.35u (0.48) |
網付き 4枚粒状 400g |
0.72u (1.17) |
網付き 8枚粒状 2.4kg |
2.88u (3.24) |
(イ) 1齢、2齢の各2回目、3齢2回目と3回目の給餌は、水戻しをしたブロック状飼料を切削給餌するか、あるいは手でほぐして給餌する。この場合、短ざく状切削給餌と同様、蚕座周辺が乾燥し易いので、蚕座の中心よりも周辺部に多く給餌する。
(ウ) 給餌作業で用いた器具類の洗浄・消毒については、80ページ−(カ)の頂を参照のこと。
(3)眠期の取扱い
眠期の取扱いの適否は、蚕の揃いや発育、成長に直接影響を与えるので、蚕の成育を斉一化するうえから、この時期の管理が最も重要である。ほとんどの蚕が就眠した時には、残餌がほぼ乾燥して、蚕がこれを摂食できない状態となることが必要で、それには拡座と除湿の時期がポイントとなる。すなわち、飼料は給餌後徐々に乾燥していくが、拡座によって乾燥は早まり(図W−15)更に除湿によって一層乾燥する。
眠期に残飯の乾燥が十分できないと、早く起きた蚕がこれを食下し、発育が進んで不揃いとなる。また、これとは逆に、就眠しないうちに飼料が乾燥しきってしまうと、遅れた蚕が摂食不足となって、発育が更に遅れ、やはり不揃いになる。
したがって、各齢の催眠期に拡座を行い、飼料の乾燥を進めると同時に、それまで重なり合っていた飼料の新しい面を出して、遅れた蚕の摂食を促し、眠蚕の発生状況を考慮しながら除湿して飼料を完全に乾燥させる。
しかし、飼料の乾燥の速さは、その種類や形状及び飼育環境、特に湿度と気流の強弱によって異なるので、それぞれの飼育体系、飼育施設の構造及び飼育規模などにあった適切な取扱いが必要である。
ア 短ざく状切削給餌
(ア) 各齢とも、催眠期に入ったら次齢餉食時の蚕座面積まで拡座する。この催眠期は、飼料や蚕品種あるいは飼育温度などによって若干異なるが、1齢は、掃立後約60時間目、2齢は、餉食後約48時間目、3齢は、同約60時間目を目安とし、飼料の乾燥が進んでいる場合は拡座をこれより若干遅らせ、反対に飼料の乾きが悪い場合はこれより若干早めるなど、適宜加減する(表W−14)。
拡座時間(餉食後の時間) | 4齢起蚕率 | ||
1 齢 | 2 齢 | 3 齢 | |
48時間 | 36時間 | 48時間 | 97.4% |
60 | 48 | 60 | 99.4 |
72 | 60 | 72 | 98.6 |
(イ) 拡座作業には、手又は潮干狩用の熊手を使うのが能率的である(写真W−10)。
手作業の場合、ポリエチレン製手袋又はゴム手袋を着用するが、圧死蚕や埋没蚕を発生させないようにし、熊手は、やすりなどを用いてその先端を丸め、蚕が傷つかないよう注意する。
(ウ) 拡座を行って、残餌の乾燥を進めると同時に飼料の新しい面を出して遅れた蚕の摂食を促し、これらが就眠した頃を見計らって65%を目標に除湿を始める。
飼育規模、飼育施設の構造あるいは空調機の能力なとがら除湿能率が低い場合は、除湿をやや早めに開始する。なお、飼料の乾燥が十分でないときは、ソルビン酸5%を含む酸性白土又はラジオライト800を散布することも有効であるといわれている(写真W−11)。
ただし、石灰の散布は、酸性に保たれている飼料が中和され、それによりカビや細菌の繁殖を助長するので絶対に避けなければならない。
(エ) 気流が強いなどの理由で、飼料が早く乾きすぎる心配のある場合は、就眠初期に軽度の除湿を行い、完全に就眠した時点で本格的に除湿して、段階的に蚕座を乾燥させる。
イ 棒状切削給餌
(ア) 眠蚕が出はじめたら拡座を行って、残餌の乾燥を図る。この拡座は、次齢の給餌をやり易くするため、次齢の蚕座面積よりやや狭くする。
拡座作業に当たっては、ポリエチレン製手袋又はゴム手袋を着用して行う(写真W−12)。
(イ) 除湿は、起蚕が1割程度出現した時点で開始し、短時間のうちに55%程度まで下げることを目標とする。
なお、この程度の除湿が不可能なときは、早めに除湿を開始する。
(ウ) 気流が強いなどの理由で、飼料の乾きが早すぎる場合の取扱いについては、85ページ−(エ)の項参照のこと。
ウ 平板状下方恰餌
(ア) 2眠期に入り3齢の起蚕が見えはじめる頃になると、ほとんどの眠蚕は飼育網又は穴あきフィルムに登るので、このとき停食を兼ねた除沙を行い(写真W−13)、同時に70%を目標に除湿する。
(イ) 蚕ののっている飼育網は隣の空トレイに移し、平板状飼料に残っている蚕は羽箒で集めて先の飼育網上へ、蚕が均一になるように払落とす。残餌は、蚕糞がこぼれ落ちないように、そのまま折りたたんで取除き、残餌を取除いた空のトレイは次の飼育網を移すトレイとして、順次この作業をくり返していく。
(ウ) 眠中は、蚕寄りを防止するため、棚カバーをおるし、全暗で保護する。
(4) 起蚕の取扱い
各齢の餉食時期の適否は、蚕の揃いに大きく影響する。すなわち、餉食が早すぎると、遅れた蚕の脱皮阻害、食欲不振等により成育が不揃いになり、逆に餉食が遅すぎると、早く起きた蚕が飢餓状態となって衰弱し、一部の起蚕は残餌を摂食して成育が不揃いとなる。
したがって、餉食は極端に早いものは除いて起蚕出現後15〜24時間を越えない範囲で、起蚕率95〜98%まで起揃うのを待って行うことが望ましい。
起蚕出現後30時間を経過してもなお起蚕奉が95%程度に達しない場合には、その時点で餉食させ、配蚕後桑付けの時に、早口蚕と遅口蚕に分けて飼育することもやむをえない。餉食が夜間にかかるなどの理由から、やむをえず翌朝まで遅らせなければならない場合には飼育温度を25℃程度まで下げ、起蚕の疲労を防ぐ方法もある。
ア 短ざく状切削給餌
(ア) 餉食に当たっては、羽箒を使って周囲に這出した蚕を蚕座へ寄せながら、座内のむら直しを行う。
(イ) 給餌に当たっては、給餌むらのないよう注意するが、機械給餌でむらが生じたときは、むら直しを行い、必要に応じて給餌板による補給餌を行う(写真W−14)。
この場合、必要最少限の給餌量にとどめ、特に飼料を無駄にしないよう留意する。
(ウ) その他、給餌に際しての取扱いについては、79ページ−アの項を参照のこと。
イ 棒状切削給餌
(ア) 餉食に当たっては、羽箒を使って周囲に這出した蚕を蚕座へ寄せるとともに、棒状飼料を手で移動させて蚕のむら直しを行ってから給餌する(写真W−15)。
(イ) 給餌後棒状飼料の間隔が広すぎる部分は、極力むら直しをしてこれを是正する。
(ウ) その他、給餌に際しての取扱いについては、81ページ−イの項を参照のこと。
ウ 平板状下方給餌
(ア) 3齢の蚕が起き揃って飼育網上に登っていることを確認してから餉食させる。
(イ) 餉食は、最初の空トレイに平板状飼料を置き、上面フィルムをはがし、起蚕ののった飼育網を飼料上へ移して行う(写真W−16、17)。
この場合、平板状飼料に凹凸があると、飼料への移行が悪く、不揃いの原因となるので、もし凹凸があれば、フィルムをはがす前に「のし棒」等で平らにしておく。
(ウ) 網下に残った蚕は、羽箒で集め、先の飼育網上へ、蚕が均一になるよう払落とす。餉食を長時間遅らせた場合は、その間に吐糸した起蚕が蚕座から離れにくく、傷つき易いので、扱いには十分注意する。
(エ) その他、給餌に際しての取扱いについては、81ページ−ウの項を参照
のこと。
エ 網付水戻し給餌
(ア) 餉食に当たっては、羽箒を使って周囲に這出した蚕を蚕座へ寄せ、必要に応じて座内のむら直しを行う。
(イ) 給餌は、水戻しをした網付き飼料を用いるが、この場合、飼料面を上に、網面を下にして蚕座にのせる。
(ウ) その他、給餌に際しての取扱いについては、82ページ−エの項を参照のこと。
(5) 蚕休蚕座の消毒
清浄な環境で行われる人工飼料育では、1〜3齢を通して蚕体・蚕座の消毒を行う必要は認められない。
しかし、万一飼料にカビが発生した場合には、その周囲数cmの範囲に消毒用アルコール(70%エタノール)をスポイト等で滴下し、この部分のみを注意深く取除く。更に、取除いた部分に、再度消毒用アルコールを滴下して丁寧に拭きとる。
消毒用アルコールの滴下は、消毒効果とともに、カビの発生した飼料を除去する際、カビの胞子が飛散するのを防止するうえからも有効である。
カビの発生が2〜3ヵ所以上に及ぶようであれば、それぞれの部分を前記の要領で処置した後、消毒済みの網(網目が細かく、軟らかいポリエチレン製網)を入れて給餌し、蚕の這い上りを待って除沙し、直ちに残沙を焼却するか、又は薬液へ投入して処理する。
なお、カビの発生が1ヵ所でも確認された場合には、既にその胞子が蚕座全面に飛散しているとも考えられるので、消毒除去あるいは除沙作業を行った後も、その蚕座及び前後の蚕座について注意深く観察することが大切である。また、次の蚕期への影響も懸念されるので、飼育施設、飼育環境、作業者の出入方法、蚕具類の取扱いなど、防疫管理体制を見直して万全を期さなくてはならない。
5 配 蚕
配蚕は、人工飼料育から桑葉育へ移行する重要な時期に行われるので、実情に合わせながら安全で、しかも効率的な配蚕時期、配蚕方法を選定することが必要である。
(1) 配蚕の時期
ア 眠蚕、起蚕のどちらでも配蚕は可能であるが、配蚕先の飼育施設が保温困難であるときは眠中保護が適切に行われにくいので、起蚕配蚕が望ましい。
イ 配蚕は、一般に2眠配蚕では眠蚕が40%以上、3眠配蚕では眠蚕が60%以上出現した時に、また3眠起蚕、4眠起蚕の場合は、いずれも起蚕が80%以上出現した時に行うのがよい。
なお、起蚕に桑葉を1〜2回給与して桑付け配蚕を行う方法もある。この場合、桑葉を飼育室に持込むので、配蚕後の清掃・消毒は特に厳重に行い、次蚕期に病原汚染の心配を残さないよう十分注意する。
ウ 平板下方給餌における配蚕は、2齢又は3齢の就眠時に停食作業を兼ねて行う。
エ 1〜2齢期を施設の収容能力一杯で飼育し、その半分は2眠で配蚕して、残りの半分を引続き3齢まで飼育すると施設の高度利用につながる。
この場合、2眠配蚕の作業時に外気による汚染を防止するため、例えば配蚕口の内側にエアカーテン(写真W−18)を付設するとともに、飼育所内部の作業者と外部の作業者とを区分するなど、清浄環境保持の点で特別な配慮が必要である。
(2) 配蚕の方法
ア 人工飼料育蚕座は平面的で残餌などが塊状になり易く、また切削飼料では乾燥した飼料が、蚕体、特に起蚕を傷つけるおそれがあるので、コンテナ等の配蚕容器(写真W−19、20)や天竜型蚕箔などの積重ね型式により、蚕座を広げたままの状態で配蚕する。
なお、この方法で4時間程度の輸送を行っている事例もある。
イ 配蚕が短時間で済む場合は、桑葉育と同じように、す巻法(写真W−21)、包み法(写真W−22)等による配蚕も可能であるが、この場合蚕座の結束をゆるめにして輸送中の座内の通気を図り、座むれの防止に努める(図W−16)。
日中高温時に、す巻法や包み法で長時間(4時間)の輸送を行った場合は、輸送中の蚕座内温度や炭酸ガス濃度が高くなり、いわゆる「むれ」を生じて半脱皮蚕や不脱皮蚕が発生(写真W−23)することがあるので十分な注意が必要である。
ウ 前記の配蚕方法の他に、棒状切削給餌における折りたたみ法(図W−17)、更には平板下方給餌における飼育網の積重ね法(飼育網の規格に合わせたダンボール箱に緩衝材:スタイロパックなどを用いて6枚程度積重ねる:写真W−24)などがあるが、この場合、座むれと病原汚染の防止に努める。
エ 夏秋蚕期における配蚕は、特に座内のむれを防止するうえから朝夕の涼しい時刻を選び、作業を手際よく行って配蚕に要する時間を極力短かくすることが必要である。
なお、春蚕期あるいは晩秋蚕期以降の配蚕で低温にあいしかも長距離輸送を行う場合は、保温資材(布テント等)で被覆する。
オ 降雨時に配蚕を行わなければならない場合は、蚕座を濡らさないようテントやシート等で被覆する。この場合、座むれを防止するため、被覆材が蚕座に密着しないよう工夫する。
6 配蚕後の飼育取扱い
桑葉育への切換え時の飼育取扱いが不適当な場合は、その後の発育の揃いや、桑葉育への移行が順調にいかなかったり、ひいては繭重や収繭量へも影響を及ぼすので、適切な取扱いが必要である。
(1)配蚕後の処置
配蚕を受けたら直ちに荷をほぐし、拡座を行って、起蚕が起き揃うまで持って桑付ける。この間は、それまでの人工飼料育の飼育温度を極力保持するように努め、極端な高温や低温にあわせないよう注意する。
眠中配蚕された蚕の揃いが十分でなく、遅れた蚕が目立つときには、その後の発育を揃える方法として、就眠前に桑葉育の体系に準じた給桑を1〜2回行うことが効果的である(表W−15)。 この場合、適齢用桑若しくはそれよりやや軟らかめの良桑を吟味し、網入れをして給桑し、遅れた蚕が網上に登り次第、遅くとも起蚕が出現する前に網取りをして2口に分ける。
取扱い方法 | 経 過(日・時) | 4 齢 起蚕率 |
初熟〜終熟 までの時間 |
||
1〜2齢 | 3 齢 | 4〜5齢 | |||
桑葉育(対照) | 7.01 | 4.03 | 13.18 | 99.7% | 48 |
2回給桑停食 | 7.21 | 4.05 | 13.20 | 97.6 | 52 |
1回給桑停食 | 7.21 | 4.07 | 13.20 | 97.3 | 54 |
人工飼料停食 | 7.21 | 4.19 | 13.16 | 96.9 | 66 |
(2) 桑付け作業
桑付けは、初起蚕が出てから15〜24時間を目途に行う。不揃いのときは、必要以上に桑付けを遅らせることなく発育の遅速によって飼育口数を2〜3口に分け、口別の経過を揃える。これは、その後の飼育取扱いや上蔟作業を円滑に行ううえでも有効である。
桑付けに当たっては、蚕体・蚕座の消毒剤を散布した後、ポリエチレン製網を入れて給桑するが、給与桑は、特に蚕が桑になじむまでの1〜2日間、粗硬葉や不良桑などを避け、軟らかめの桑を吟味する。
(3) 切換え後の飼育温度
桑葉育への移行並びにその後の発育を順調にするため、人工飼料育蚕の桑付け当初すなわち桑付け後36〜48時間の飼育温度は、桑葉育の標準温度よりやや高め、1〜2齢人工飼料育蚕の3齢期は27℃、1〜3齢人工飼料育蚕の4齢期は26℃に保つよう努める(図W−18)。
(4)除 沙
桑付け直後の除沙は、蚕が網上に登り次第できるだけ早い時期に行うことが望ましい。
これは、残餌が給桑によって湿気を帯び、カビが繁殖し易くなるからである。この場合、網下に残った蚕を遺失蚕にしないよう十分注意する。
なお、除沙の際、ポリエチレン製網に残餌が付着すると作業がしにくいので、ポリエチレン製網をあらかじめ2枚重ねて入れておき、上の一枚を持上げるようにする。
残餌と残沙は焼却炉により焼却し灰にするか、又は堆肥化するかしてから桑園へ施す。この場合、土壌表面への散布は避け、土中に埋めることが望ましい。
7 飼育のあとかたづけ
飼育終了後の蚕室内、特に飼育作業室の床面や蚕具類には蚕糞、残餌、ホコリ等が散乱、付着しているが、これを放置しておくと病原菌の巣にもなり、次の飼育に大きな支障となるので、徹底した清掃・洗浄及び消毒を行うことが必要である。
また、この期間を利用して機械・器具類の点検整備を入念に行っておくことが防疫管理上からはもちろんのこと、機械類を長持ちさせるためにも有効である。なお、蚕期終了後は、ややもすると気のゆるみから機械類による思わぬ事故が生じ易いので、特に給餌機等の取扱いには十分注意する。
(1) 清掃・洗浄
ア 飼育室、着衣室・脱衣室、飼料保存室はもちろん、管理室、休憩室、更には飼育所の周囲などについても徹底的に清掃し、掃き集めたホコリ類は直ちに焼却処分する。
イ 飼育機、給餌機をはじめ、飼育室、更衣室、飼料保存室など、水洗い可能なものは十分洗浄し(写真W−25、26)、水洗いできない部分は、清潔な布等で丁寧に拭きとり、消毒に備える。
ウ 蚕具類の洗浄は、ホコリやゴミを流すだけでなく、病原菌や汚物を洗落とすことが重要である。そのためには流水で行うのがよいが、やむなく水槽で行うときは、400倍の高度さらし粉水溶液を用いる。洗浄した蚕具類は十分に乾燥させてから消毒する。
(2) 消 毒
ア 消毒は桑葉育に準じて行う。すなわち、ホルマリン2%液で界面活性剤(アリバンド)の500倍液を調製し、3.3u当たり3gを基準にして動力噴霧器などにより散布する。この際、計器類、スイッチ、モーター等はホルマリン液に浸した布で表面を拭いてからビニールで被覆して、直接ホルマリンがかからないようにする。なお、機械装置等の錆び止めをねらいに養蚕用防錆剤0.2%を添加する。
イ 空調装置のダクトには消毒口を設け、消毒液を直接散布する。消毒後はタト気の導入口のダンパーを閉め、飼育室を密閉し、24℃以上に加温しながら空気を循環させる。
ウ 消毒後のホルマリンのガス技きは、飼育室・前室などは開放しないで、送風機や換気扇を排気の状態で用いて行う。
このガス技きを急ぐ場合には、消毒後24時間を経過した頃、アンモニア水(21〜28%)を広ロビンか皿に200mlあて分注し、50m3当たり3カ所に配置すると約20時間で脱臭することができる。この場合、アンモニアも臭気が強いので、防毒マスクを着用して作業を行い、脱臭後は直ちに取出して廃棄する。なお、アンモニア臭が残ると蚕にとって好ましくないので注意する。
出典
『稚蚕人工飼料育指導の手引』
(編集:農林水産省農蚕園芸局、発行:日本蚕糸新聞社、1981年)
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