根粒菌の共生窒素固定に必須な宿主マメ科植物遺伝子FEN1 の発見
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[要約]
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マメ科植物の根粒で特異的に発現するFEN1 遺伝子が、共生する根粒菌の窒素固定酵素(ニトロゲナーゼ)の生合成に必須の役割を果たしていることを明らかにした。
農業生物資源研究所・植物科学研究領域・植物・微生物間相互作用研究ユニット
[連 絡 先]029-838-8382/8377
[分 類]知的貢献
[キーワード]根粒菌、共生窒素固定、ミヤコグサ、ニトロゲナーゼ
[背景・ねらい]
- マメ科植物と根粒菌の共生による大気窒素の窒素固定(アンモニアへの還元)を有効利用することは、農業生産の向上と食料問題の解決の上で重要な意義を持っている。この共生窒素固定の仕組みを明らかにするため、マメ科のモデル植物であるミヤコグサを材料とし、根粒は形成するが窒素固定活性がほとんど認められない変異体(Fix変異体)を用いて、窒素固定活性を制御する植物の因子の同定と、その機能解明を目指した。
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[成果の内容・特徴]
- ミヤコグサfen1変異体は、根粒を形成し根粒菌はその中に共生するが、窒素固定活性をほとんど示さないため、窒素肥料を与えることなしには正常に生育することができない(図1)。この変異体の原因遺伝子FEN1 を単離し、構造を明らかにした。FEN1 遺伝子は、根粒でのみ発現しており、FEN1タンパク質はアセチル-CoAと2-オキソグルタル酸の縮合反応を触媒するホモクエン酸合成酵素(HCS)であることが明らかとなった(図2)。野生型根粒は大量のホモクエン酸を含むのに対し、fen1根粒にはそれがほとんど含まれていなかった。
- 根粒における大気窒素の固定は、根粒菌のニトロゲナーゼにより行われる。ホモクエン酸は、ニトロゲナーゼの活性中心である鉄-モリブデン・コファクター(FeMo-co)の構成因子である。ホモクエン酸合成酵素遺伝子(NIFV )は多くの窒素固定細菌から見つかるが、マメ科植物と共生するときにだけ窒素固定活性を発現する根粒菌のほとんどは、この遺伝子を持っていない。そこで、FEN1 遺伝子を導入した根粒菌を作出しfen1変異体に接種したところ、形成された根粒で窒素が固定され、植物は窒素肥料なしで正常に生育できるようになった。また、窒素固定細菌アゾトバクターのNIFV 遺伝子を導入した根粒菌によっても、まったく同じ結果が得られた(図3)。
- これらの結果から、マメ科植物・根粒菌の共生窒素固定系において、宿主マメ科植物のFEN1 遺伝子の働きにより合成されたホモクエン酸が、共生する根粒菌に供給され、ニトロゲナーゼの活性中心の合成に利用されることによって、高い窒素固定活性が発揮されるという仕組みが明らかになった(図4)。
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[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
- FEN1遺伝子は、それときわめて近い関係にありすべての植物にもともと存在すると思われるイソプロピルマレート合成酵素遺伝子を進化させることによって獲得されたと推察され、一方根粒菌はマメ科植物との共生の過程で、窒素固定に必須なNIFV遺伝子を失ったと考えられる。今回の成果はマメ科植物・根粒菌による共生窒素固定系の進化を解明するうえでも重要な一歩である。
- 共生窒素固定の制御に関与する宿主植物遺伝子はきわめて多数にのぼると推定されることから、これまでに分離した多数のFix変異体の原因遺伝子の機能解明を引き続き進めていく必要がある。それによって、窒素固定量の増大や、さらには非マメ科植物を含む新たな共生系の作出のための基盤が形成されると期待される。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名 :植物・微生物間共生におけるゲノム相互作用
予算区分 :受託(連携施策群)
中期計画課題コード:B41
研究期間 :H19〜21年度
研究担当者 :箱山雅生、矢野幸司、今泉温子、河内宏、菅沼教生(愛知教育大学)
発表論文等 :1)Hakoyama, T., Niimi, K., Watanabe, H., Tabata, R., Matsubara, J., Sato, S.,
Nakamura, Y., Tabata, S., Li, J., Matsumoto, T., Tatsumi, K., Nomura, M.,
Tajima, S., Ishizaka, M., Yano, K., Imaizumi-Anraku, H., Kawaguchi, M.,
Kouchi, H. and Suganuma, N. (2009) Host plant genome overcomes the lack
of a bacterial gene for symbiotic nitrogen fixation. Nature, 462(7272)
:514-517.
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