侵入昆虫ブタクサハムシの寄主植物範囲を規定する化学因子


[要約]
  ブタクサハムシの摂食行動は寄主植物であるブタクサに含まれる2種のトリテルペノイドと2種のカフェー酸誘導体の混合物により誘起される。本種の摂食反応は、これらの摂食刺激物質と摂食を阻害する因子により決定されると考えられる。

農業生物資源研究所・昆虫適応遺伝研究グループ・昆虫植物間相互作用研究チーム

[連 絡 先]029−838−6085 [分   類]知的貢献 [キーワード]キク科植物、寄主選択、摂食刺激物質、ブタクサ花粉症、ブタクサハムシ


[背景・ねらい]
  ブタクサハムシOphraella communa(コウチュウ目ハムシ科)は、1996年に日本ではじめて発見された北アメリカ原産の帰化昆虫である。初発見以降、本種はブタクサAmbrosia artemisiifoliaを主な寄主植物として急速に分布域を拡大し、各地でブタクサを枯死させる程に増加した。当初、本種は花粉症の原因となるブタクサを防除する生物素材として注目されていたが、ヒマワリの食害が報告され、農作物に及ぼす影響が危惧されるようになった。そこで、本研究ではブタクサハムシ成虫の食草範囲を規定する因子を明らかにすることを目的とした。

[成果の内容・特徴]
  1. ブタクサのメタノール抽出物をろ紙に添加し、ブタクサハムシ成虫に与えたところ、ろ紙を摂食する行動が観察され、摂食刺激物質の存在が示唆された。
  2. ブタクサのメタノール抽出物から摂食刺激物質を精製し、4成分を同定した(図1)。成虫はこれらのトリテルペノイド(α-amyrin acetateもしくはβ−amyrin acetate)とカフェー酸誘導体(5-caffeoylquinic acidもしくは3,5-dicaffeoylquinic acid)の混合物に摂食行動を示した。
  3. 17種のキク科植物で摂食刺激物質の有無を調べたところ、ブタクサハムシに摂食されない幾つかのキク科植物中にも摂食刺激物質が存在していた(表1)。これらの植物抽出物を、ブタクサ抽出物に添加すると摂食が抑えられた(データ省略)。このように、摂食刺激物質が存在しながら加害を受けない植物には、摂食行動を阻害する因子が含まれている可能性が示唆された。
  4. 摂食刺激物質を含有していたシュンギク、レタス、ゴボウ、ヒマワリを用い、寄主適合性を検定した。成虫はこれらの植物を食害したが、シュンギク、レタス、ゴボウを与えた際には産卵が見られなかった。また、幼虫はシュンギク、レタス、ゴボウを与えた場合は短期間で死亡し、蛹化には至らなかった。ヒマワリは食害、産卵とも観察された。

図1

表1
[成果の活用上の留意点・波及効果・今後の展望等]
  1. ブタクサハムシの摂食刺激物質であるα-およびβ-amyrin acetate等の含有量を指標にヒマワリ品種を育成することによって、ブタクサハムシに食害されないヒマワリ品種の育成が可能となる。
  2. 栽培植物であるレタス、シュンギク、ゴボウでは、成虫の食害を受ける可能性はあるが、寄主植物としての適合性は低いと考えられる。


[その他]

研究課題名    :植食性昆虫の加害特性と植物由来成分との関係解明のための検定系の確立 予算区分     :交付金 中期計画課題コード:A662-1 研究期間     :00〜05年度 研究担当者    :田村泰盛,服部誠,今野浩太郎 発表論文等    :Tamura Y, Hattori M, Konno K, Kono Y, Honda H, Ono H, Yoshida           M,(2004)Triterpenoid and caffeic acid derivatives in the           leaves of ragweed, Ambrosia artemisiifolia L.(Asterales :           Asteraceae), as feeding stimulants of Ophraella communa           LeSage(Coleoptera : Chrysomelidae). Chemoecology, 14 : 113-118.

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