耐塩性に関与するイネ液胞膜型Na+/H+アンチポーターの機能


[要約]
イネの液胞膜にはNa+/H+アンチポート活性が存在することを確認した。さらに、イネ液胞膜型Na±/H±アンチポーター遺伝子(OsNHX1)を単離した。OsNHX1遺伝子の発現は塩ストレスによって上昇することを確認した。
農業生物資源研究所・生理機能部・耐病性研究室
[連絡先] 0298-38-8376
[部会名] 生物資源・生物工学
[専門]  生理;バイテク
[対象]  稲類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
 Na+/H+アンチポーターは、生体膜を介してNa+とH+の対向輸送を行う輸送体であり、細胞内のNa+レベル、pH、細胞容量などの調節に寄与していると考えられている。植物では、塩ストレス時に細胞内に流入したNa+の排出や液胞への隔離に関与すると考えられ、特に液胞膜型は、細胞容積の大部分を占める液胞内にNa+を能動的に輸送するため塩ストレスの回避に重要な働きをすると考えられているが、遺伝子の単離などが遅れていたため不明な点が多かった。そこで、主要作物であるイネについて、液胞膜型Na+/H+アンチポーターの生化学的解析や遺伝子単離などを行い、アンチポーターの機能解明を目指した

[成果の内容・特徴]
  1. イネの液胞膜にはアンチポート活性が存在することを確認した。また、この活性は、高い耐塩性を持つオオムギのものと生化学的性質が類似していた。塩ストレス時のイネのアンチポート活性はオオムギより低いが、これはオオムギとの量的違いであることが予想された。
  2. イネから液胞膜型Na+/H+アンチポーター遺伝子(OsNHX1)を単離した(図1)OsNHX1遺伝子は、出芽酵母や哺乳類のNa+/H+アンチポーター遺伝子において機能的に重要と思われる領域と相同性が高かった。
  3. 出芽酵母の液胞膜型Na+/H+アンチポーター遺伝子NHX1変異株(Bnhx1,R100)を用いてOsNHX1遺伝子による機能相補実験を行ったところ、Bnhx1のNaCl、LiCl及びハイグロマイシン感受性がOsNHX1遺伝子を高発現させることによって回復した(図2)。このことから、OsNHX1遺伝子は液胞膜型Na+/H+アンチポーター機能を有したタンパク質をコードしていることを確認した。
  4. イネにおけるOsNHX1遺伝子の発現に対するNaCl(イオンストレス)及びマンニトール(浸透圧ストレ ス)の効果を解析したところ、根及び茎葉においてイオンストレス特異的な発現上昇を確認した(図3)

[成果の活用面・留意点]
今回得られたNa+/H+アンチポーター遺伝子は、塩ストレス、特にイオンストレスに対する植物の環境応答のメカニズムを知る上でよい手がかりになると思われる。また、本遺伝子を高発現させることで植物の耐塩性を高められる可能性がある。

[その他]
研究課題名 :イネ根のNa+/H+アンチポート活性の特性解明、植物への環境保全機能付与技術の開発
予算区分  :経常、組換え・クローン
研究期間  :平成12年度(平成6〜7年、平成11〜13年)
研究担当者 :福田篤徳、田中喜之
発表論文等 :1)Fukuda, A., Yazaki, Y., Ishikawa, T., Koike, S. and Tanaka, Y.(1998)Na+/H+ antiporter in tonoplast
        vesicles from rice roots. Plant Cell Physiol. 39:196-201.
       2)Fukuda, A., Nakamura, A and TANAKA, Y.(1999)Molecular cloning and expression of the Na+/H+
        exchanger gene in Oryza sativa. Biochim. Biophys. Acta 1446: 149-155.
       3)ナトリウム/プロトン対向輸送体遺伝子, 日本, 特願平10-365604号, 平成10年12月
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