イネいもち病抵抗性遺伝子Pib


[要約]
  第2染色体上に存在するイネのいもち病抵抗性遺伝子Pib を遺伝地図情報を利用して単離した。Pib 遺伝子は1251アミノ酸からなる蛋白質をコードし、その蛋白質はヌクレオチド結合部位とロイシンに富む反復配列を有する。Pib 遺伝子は常に低レベルで発現しているが、いもち病菌の接種によってその発現の増加が認められた。

農業生物資源研究所・分子遺伝部・ゲノム複製研究室

[連絡先]0298-38-7443 [部会名]生物資源・生物工学 [専 門]バイテク [対 象]稲 類 [分 類]研 究


[背景・ねらい]
  イネの重要病害の一つであるいもち病の抵抗性に関する遺伝研究は古くから行われてきたが、未だにいもち病抵抗性遺伝子の単離・同定には至っていない。本研究では、第2染色体上に存在するいもち病抵抗性遺伝子Pib を遺伝地図情報を利用して単離・同定し、その構造を明らかにするとともにいもち病抵抗性育種の効率化のための基礎知見を得ることを目的とした。
[成果の内容・特徴]
  1. 抵抗性品種東北IL9号と罹病性品種ササニシキの交雑後代から得られた3,305個体の大規模分離集団を用いて、Pib 領域の高精度連鎖地図を作成した。近接する RFLPマーカーにより、Pib 領域のコスミドクローンの整列化を行った。またコスミドクローンの塩基配列情報から、Pib の候補遺伝子領域(Sub3-5およびSub2-103)を見い出した(図1)。
  2. Sub3-5を含む候補遺伝子領域を形質転換法により罹病性品種日本晴に導入して、抵抗性が獲得されることを確認し、Pib 遺伝子を同定した(図2)。
  3. Pib 遺伝子は1251アミノ酸からなる蛋白質をコードし、その蛋白質はヌクレオチド結合部位とロイシンに富む反復配列を有する(図3)。
  4. Pib 遺伝子は常に低レベルで発現しているが、いもち病菌の接種によってその発現の増加が認められた。
[成果の活用面・留意点]
  Pib 遺伝子は植物抵抗性遺伝子に共通する構造を有していた。この知見は他のいもち病抵抗性遺伝子の単離に有用である。単離したPib 遺伝子は形質転換手法により任意の品種に導入でき、いもち病抵抗性育種に利用可能である。


[その他]

研究課題名:植物の生育に関与する遺伝子の単離と機能の解明 予算区分 :経常、バイテク[イネ・ゲノム] 研究期間 :平成10年度(平成9〜12年) 発表論文等:1)矢野昌裕、岩本政雄、片寄裕一、佐々木卓治「いもち病抵抗性遺伝子」   特許願平10-181455 2)Wang ZX., Yano,M., Yamanouchi,U., Iwamoto,M., Monna,L.,Hayasaka,H., Katayose,Y. and Sasaki,T. (1999) The Pib gene for rice blast resistance belongs to the nucleotide binding and leucine-rich repeat class of plant disease resistance genes. Plant J. 19(1):55-64

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