このページはJavascriptを利用しております。

研究紹介(一般の方へ)

  1. DNAマーカーとは?量的形質とは?
  2. 量的形質遺伝子座(QTL)のマッピング
  3. イネゲノム育種研究ユニットの役割

 


1.DNA マーカーとは?量的形質とは?

図:DNA マーカーとは?量的形質とは?
<クリックすると拡大します>

生物がもつゲノム塩基配列は、進化の過程でさまざまな変異を生じながら子孫に伝えられます。性質の違う2 つの個体はそのゲノム塩基配列のどこかが違います。すなわち塩基配列の違いは、ある個体の性質が、どちらの両親の染色体(遺伝子)から伝わったかを表す指標となります。この違いは塩基配列そのものの解析によってのみならず、さまざまな間接的な手法でも識別できます。この間接的な手法において用いられるゲノム上の目印のことをDNAマーカーとよびます。

DNAマーカーのゲノム上での挙動はメンデルの遺伝法則に従うことから、単純な遺伝様式の形質に関与する遺伝子については連鎖関係(2 つの遺伝子座がどの程度一緒に親から子へ伝わりやすいか)を利用して、染色体上のどのDNAマーカーの近くに存在するかを明らかにする(マッピング)ことができます。

農業上有用な形質の多くは、複数の遺伝子の効果の組み合わせによって決定されています。このような形質を総称して量的形質(quantitative trait)とよび、量的形質を決定している遺伝子座をQTL(quantitative trait locus)とよびます。QTLで決定される形質はメンデルの法則が適用しづらいことから、遺伝研究が遅れていましたが、近年DNAマーカーを用いてQTLを染色体上に位置づける理論的基盤が確立し、作物における量的形質の遺伝学が大きく進展しました。

▲このページの先頭へ


2.量的形質遺伝子座(QTL)のマッピング

図:量的形質遺伝子座(QTL)のマッピング
<クリックすると拡大します>

複数のQTLで決定される形質の測定値がふたつの品種間で差を示す場合、そのふたつの品種をかけ合わせた子孫たちでは、その形質について連続的な頻度分布を示します。この場合、頻度分布を眺めただけでは、関与するQTLの数や染色体上の位置はわかりません。しかしDNAマーカーを利用することで統計遺伝学的に推定することができます。

親品種P1とP2の雑種集団の各個体について、ゲノム上に分布するいくつかのDNAマーカーを用いて、この領域が両親のどちらの染色体を受け継いだかを調査すると、親品種P1と同じ(ホモ)型、親品種P2と同じ(ホモ)型および半分ずつ受け継いだ(ヘテロ)型の3種類のサブグループに分けることができます。もし図2のマーカー2の近くにQTL が存在するならば、3種類のサブグループ間の測定値の平均値に大きな差が生じます。一方、QTLとは無関係な位置にあるマーカー1でサブグループを分けた場合、サブグループ間の測定値の平均値に有意差は認められません。遺伝子の連鎖関係を利用したこのような解析により用いたDNAマーカーの近くにQTLがあるかないかを推測することが可能となります。

染色体全体に分布するたくさんのDNAマーカーを用いて網羅的にこの解析を行うと、関与する複数のQTLの位置が決定できます。このような手法をQTLマッピングといいます。

▲このページの先頭へ


3.イネゲノム育種研究ユニットの役割

イネゲノム育種研究ユニットではこのような手法を用いて、これまでにイネの出穂性をはじめとするさまざまなQTLを明らかにしてきました。現在は、イネゲノム研究の成果をもとに、多様なイネ遺伝資源のDNAレベルでの整理と有用遺伝子の探索手法の開発を行なっています。また世界の食糧問題やエネルギー問題への貢献を目指して、耐病性や根の形態、発芽特性、収量性などの遺伝子の探索と解析を進めています。さらにゲノム育種と呼ばれる効率的な品種改良手法の提案と実践を行なうことで、ゲノム研究成果の農業現場への利活用を進めています。

▲このページの先頭へ