プレスリリース

平成１６年２月２５日 独立行政法人 農業生物資源研究所

カイコゲノム概要塩基配列の解読に成功

- 昆虫新産業創出の基盤完成 -

【要約】
　 農業生物資源研究所は、カイコの全ゲノム（５億塩基対）の塩基配列の解析を実施し、その80%に相当する塩基配列を解読することに成功した。全ゲノムショットガン(WGS)方式^１）により得られたカイコゲノムの約３倍量の塩基配列断片を東京大学大学院新領域創成科学研究科が独自に開発したコンピュータプログラム（RAMENアセンブラー）を用いてつなぎ合わせた。今後、これらの情報を公開することにより、国内外の共同研究を発展させ、新しい農薬の開発や昆虫新産業の創出に大きく貢献したい。これらの結果は2月29日に発行される専門誌「DNA Research」Vol.11, No.1（かずさＤＮＡ研究所）に掲載される。
　 本成果は農林水産省の委託プロジェクト＜２１世紀最大の未利用資源活用のための「昆虫・テクノロジー」研究＞、平成１４年度補正予算により実施され得られたものである。

【研究の背景】
　 日本ではカイコの遺伝学研究が古くから行われており、多くの研究成果が蓄積されているとともに多様な変異種を保有している。そこでカイコゲノム情報を活用した有用物質生産やゲノム創農薬、品種改良などを通して昆虫産業創出や蚕糸業に大きく貢献するために、農業生物資源研究所を中心にカイコゲノム解読を主導的に推進している。

【カイコゲノム塩基配列解読の成果の概要】

1. WGS方式によるゲノム解析は、全ゲノム情報を短期間に効率的に獲得できる方法である。本研究ではカイコ（p50T系統^２））の絹糸腺からゲノムDNAを精製し、ランダムに切断した断片から約140万個を選び、それらの両端の約500塩基対の配列を決めた。カイコゲノムの約３倍量に相当するこれら280万個の塩基配列断片情報を東京大学大学院新領域創成科学研究科が開発したRAMENアセンブラーを用いてつなぎ合わせた（図１）。
2. アセンブルした結果、計21万3千個のシーケンスコンティグ^３）が得られた。これらの合計は３億９千万塩基対であり、カイコゲノムの約80%に相当する。

1. WGS方式から得られたカイコゲノム情報を農業生物資源研究所のＨＰ（http://sgp.dna.affrc.go.jp/、図２）で公開し、国内外の全ての研究者が昆虫機能研究に利用できる体制を整える。これによりゲノム創農薬など昆虫新産業の創出研究を飛躍させる。
2. 農業生物資源研究所は、わが国と同様にカイコ塩基配列解読を進めている中国をはじめとする研究者と情報交換をはかり、カイコゲノムの解読や遺伝子の機能解析に関する国際共同研究において主導的役割を担う。

【用語等解説】

1. 全ゲノムショットガン(WGS)方式
   　 全ゲノム解読に常用されている方法で、短期間に低コストで行えるという利点がある。カイコの場合、ゲノムDNAをバラバラにして、各DNA断片の両端の塩基配列を読み取り、読み取った塩基配列断片をコンピュ−タ上でつなぎ合わせた。
2. p50T系統
   　 近親交配を繰り返し、個体間でばらつく形質を分離して遺伝子を均一化した近交系で、ゲノム解析に適している。
3. シーケンスコンティグ
   　 WGSの塩基配列断片のオーバーラップした部分をつなぎ合わせた塩基配列。

【掲載新聞】

2004/02/26	朝日新聞、産経新聞、日本農業新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞、 化学工業日報、常陽新聞
2004/02/27	日本工業新聞
2004/03/03	農業共済新聞
2004/03/09	読売新聞
2004/03/12	科学新聞