[農業生物資源研究所トップページ]  [プレスリリース]

プレスリリース
平成14年12月17日
独立行政法人 農業生物資源研究所




新たな「緑の革命」を目指し、国際イネ研究所と農業生物資源研究所が研究協力を開始

−高精度イネゲノム解読を土台に、80億人を養うキーテクノロジー開発に向けて−

[要旨]

  1. 国際イネゲノム塩基配列解析プロジェクト(IRGSP)のリーダーとして国際協力による全塩基配列解読に中心的な役割を果たしてきた独立行政法人農業生物資源研究所と、フィリピンに本拠を置いて米の増産技術の開発普及にあたっている非営利の国際イネ研究所(IRRI)は、双方が持つ人的、物的な研究資源(リソース)を活用してイネの遺伝子の機能解明を促進し、新たな品種開発に向けた共同研究を実施することで合意した。

  2. 包括的な合意書(Memorandum of Agreement、略称MOA)の署名は、12月19日(木)午前10時10分より農林水産省農林水産技術会議事務局(農林水産省南別館6階永山研究総務官室)において、日本側から(独)農業生物資源研究所の岩渕雅樹理事長、国際イネ研究所側からロナルドP.カントレル(Ronald P. Cantrell)所長が署名者となって行われる。(合意書署名における撮影及びその後の取材可能)

  3. 本合意は、(独)農業生物資源研究所がこれまでに開発し蓄積してきた各種イネゲノム研究用材料、各種データベース、そしてこれらを開発した研究者集団を高く評価した国際イネ研究所と、国際イネ研究所のもつ遺伝資源とインディカ米での育種の実績を持つ研究勢力を高く評価した(独)農業生物資源研究所が、両者の協力によりゲノム研究の成果を利用して新しい品種開発や斬新な植物資源創出とその利用法の開発を迅速に進めることが可能になるとの考えの一致により、両者の間で成立したものである。

[背景]

  1. (独)農業生物資源研究所では、1991年度(平成3年度)から開始した第1期イネゲノム研究において、農林水産先端産業技術研究所と共同で、2000個を越えるDNAマーカー(目印)をもつイネの精密遺伝地図作成、イネ染色体ごとにDNAの断片の並び順を明らかにした物理地図作成、発現している遺伝子に関する情報を与えるcDNA断片(EST)を4万種類以上解析などの成果をあげた。

  2. 第1期の成果を踏まえて1998年度(平成10年度)から開始した第2期イネゲノム研究プロジェクトでは、全塩基配列解析と並行して、イネの遺伝子単離と機能解明に向けた研究も開始し、これまでに各種のゲノム研究材料を整備するとともに、多数の遺伝子単離と機能解明を行ってきた。2000年度(平成12年度)からは国家的に特に重要な研究を支援するためのミレニアムプロジェクトの一部となり、予算が増額された。

  3. 本年12月の国際コンソーシアムによるイネゲノム塩基配列のフェーズ2レベルでの解読の完了により、イネの遺伝子機能解明は、トウモロコシや小麦などへの利用を目指した欧米の民間企業なども参入した国際的に熾烈な競争になる可能性が高いと考えられる。そのような状況下において、世界の公的な研究機関での研究開発は今まで以上に重要な意味を持ってくる。

  4. (独)農業生物資源研究所がこれまでに整備したゲノム研究材料としては、イネの遺伝子を破壊して作出した突然変異イネ系統(約5万種類)、イネの染色体の一部を他の品種のそれに置き換えた染色体置換系統(約150種類)、イネの約11,000種類の遺伝子の発現を同時に調べることができるマイクロアレイ、イネの遺伝子のタンパク質を合成する部分の情報が入っている完全長cDNA(約3万種類)等がある。さらにこれらに関連したデータを編纂した独自の各種データベースが(独)農業生物資源研究所に置いて作成され、一部は公開されている。ゲノム研究材料やデータベースに関しては今後も拡充や改良が計画されている。

[合意内容の要旨]

  1. (独)農業生物資源研究所と国際イネ研究所は、ゲノム科学と技術を応用してイネの農業上の重要な形質、特にストレス耐性、に関する遺伝子を発見する。

  2. (独)農業生物資源研究所と国際イネ研究所は、農業研究における国際協調及び開発途上国の発展を促進する人的資源の構築に協力する。

  3. 合意書の締結後3ヶ月以内に実際の共同研究のテーマと内容を取り決めた実施計画(Work plan)を作成し、合意書に付属書類として添付する。

  4. (独)農業生物資源研究所と国際イネ研究所は、それぞれが所有する研究材料を相互の知的所有権に関する規定を遵守しつつ提供しあう。

  5. (独)農業生物資源研究所と国際イネ研究所の共同研究に基づいて生じた知的所有権に関しては、両者の共有とする。

  6. 本合意書の有効期間は締結後5年間とする。更新または期間を延長する場合は終了期限の6ヶ月以上前に双方が協議し、合意した場合には更新または延長できる。中断を希望する場合は、一方が他方に書面で通知してから6ヶ月後に終了とする。

[合意成立の意義]

  1. 国際イネ研究所にとっては、(独)農業生物資源研究所が開発蓄積した研究材料とデータベースへのアクセスと(独)農業生物資源研究所の研究者との交流によって、これまで進めていたインディカ米の育種研究が加速されると期待される。

  2. (独)農業生物資源研究所にとっては、世界各地から集まった国際イネ研究所の育種学者や植物病理学者との交流および国際イネ研究所がこれまでに収集解析してきた多数のイネ野生種やイネの近縁種などの遺伝資源とそのデータベースを活用することにより、コシヒカリなどのジャポニカ米の遺伝子機能解明とその成果を活用したジャポニカ米の品種改良に向けた開発研究が加速されると期待される。

  3. (独)農業生物資源研究所と国際イネ研究所の協力により、イネゲノム研究の成果と未開拓の植物遺伝資源を利用して、イネ以外の穀類や野菜等にも新しい機能を付与した新品種や斬新な植物資源創出とその利用法の開発を迅速に進めることが可能になると期待される。

[問い合わせ先]

研究責任者独立行政法人 農業生物資源研究所 理事長岩渕雅樹
研究推進者同研究所 理事中島皐介Tel.0298-38-7097
同研究所 分子遺伝研究グループ長肥後健一Tel.0298-38-7011
広報担当者同研究所 企画調整部 広報普及課長下川幸一Tel.0298-38-7004

[補足資料]

国際イネ研究所(International Rice Research Institute、略称IRRI)のあらまし

国際イネ研究所は1960年に設立され、CGIAR(国際農業研究協議グループ)を通してメンバー国、世界銀行、アジア開発銀行などから資金の供与を受けている非営利の国際農業研究センターの一つで、フィリピン・マニラの南60kmに位置している。米の増産技術の開発普及に当たっており、高収量のインディカ米IR8などを開発して、アジアを中心とした貧しい人々の生活を改良したいわゆる「緑の革命」の拠点となった。2002年時点で、職員数は約700人、日本からの拠出額は約360万ドル(4億3千万円)。日本人職員は、本部に理事が2名、ほかに日本からの長期あるいは短期の研究員、大学院生等が数名滞在して研究や情報交換を行っている。IRRIからも日本へ研究者の派遣を行っており、独立行政法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)が交流の窓口となっている。(http://www.irri.org/

[掲載新聞]

2002/12/18日本工業新聞、日本農業新聞、日経産業新聞
2002/12/19読売新聞(夕刊)
2002/12/20化学工業日報
2003/01/10全国農業新聞、科学新聞
2003/01/20日経産業新聞