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生物研
プレスリリース
解禁時間は8月28日午前3時
新聞は28日朝刊から
平成26年8月27日
独立行政法人 農業生物資源研究所

クモ糸を紡ぐカイコの実用品種化に成功

−大量生産への道を拓く−

ポイント
  • 強くて切れにくいクモ糸の性質と、シルクの性質を合わせもつ新しいシルク(クモ糸シルク)を生産するカイコの作出に成功しました。
  • クモ糸シルクは通常のシルクの1.5倍の切れにくさを持ち、クモの縦糸に匹敵するほどでした。
  • クモ糸シルクを用いて、通常のシルクと同様の工程で織物に加工することに成功しました。
  • 今後は、さらに強度や機能性を高めたクモ糸シルクを開発することにより、手術用縫合糸などの医療素材や防災ロープ、防護服などの特殊素材への応用が期待されます。
概要
  1. クモの糸は「強く」て「伸びる」性質を併せ持つ繊維として古くから知られていますが、クモは肉食で共食いをしてしまい、大量飼育によって糸をつくることができないため、人工的に生産しようとする試みが世界中で行われています。
  2. これまで微生物でクモ糸タンパク質を大量に作らせることに成功していますが、産生されたものは繊維化されず、さらに繊維化させる操作が必要でした。また天然のクモ糸タンパク質と同等なものを作らせることが難しいため、天然のクモ糸タンパク質の特性を再現させることは困難でした。一方、クモ糸タンパク質はカイコのシルクと構造がよく似ているため、カイコに作らせることができれば糸を吐くときにそのまま繊維化できることから、カイコでクモ糸タンパク質を作らせる試みもなされています。しかしながらこれまでに得られた繊維は非常に弱く、紡績機などで機械加工を行うことは困難でした。
  3. そこで独立行政法人農業生物資源研究所は、機械加工にも耐えられる実用的なクモ糸タンパク質をカイコに作らせて利用することを目的として、実際のシルク生産に用いられるカイコ品種にクモの縦糸遺伝子を導入し、強くて切れにくいクモ糸の性質と、カイコ本来の光沢や柔らかさを合わせもつ新しいシルク(クモ糸シルク)を生産することに成功しました。
  4. 細くても強く切れにくいクモの縦糸を含んだクモ糸シルクは、通常のカイコのシルクの1.5倍の切れにくさ1)を持っており、鋼鉄の約20倍の切れにくさを持つといわれるアメリカジョロウグモの縦糸に匹敵するほどでした。
  5. クモ糸シルクは、操糸2)から紡織までの全ての工程において従来のシルクと同様の機械を用いて加工することができるため、クモ糸シルク100%のベストやスカーフを制作することに成功しました。
  6. 今後、さらに強度や機能性を高めたクモ糸シルクを開発することにより、手術用縫合糸などの医療素材や防災ロープ・防護服などの特殊素材の開発が期待されます。また、クモ糸シルク自体の利用だけでなく、蛍光シルクなどの特色あるシルクを産生するカイコ品種と掛け合わせて「切れにくさ」という特性を付与することも可能になることから、より高付加価値を持つシルクの開発が期待されます。
  7. この成果は、8月27日に米国科学雑誌PLoS Oneに発表される予定です。
予算:農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」(22年度から24年度)、運営費交付金
プレスリリース全文 [PDF:502KB]
【発表論文】

Kuwana Y, Sezutsu H, Nakajima K, Tamada Y, Kojima K (2014) High-toughness silk produced by a transgenic silkworm expressing spider (Araneus ventricosus) dragline silk protein PLoS One (DOI: 10.1371/journal.pone.0105325

問い合わせ先
研究代表者:(独)農業生物資源研究所 理事長廣近 洋彦
研究推進責任者:(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究センターセンター長高野 誠
(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究センター
 新機能素材研究開発ユニットユニット長亀田 恒徳
研究担当者:(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究センター
 新機能素材研究開発ユニット主任研究員桑名 芳彦
 電話:029-838-6164 E-mail:kuwana@affrc.go.jp
(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究センター
 新機能素材研究開発ユニット主任研究員小島 桂
広報担当者:(独)農業生物資源研究所広報室長谷合 幹代子
 電話:029-838-8469
本資料は筑波研究学園都市記者会、文科省記者会、厚労省記者会、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブに配付しています。

【掲載新聞】 8月28日読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、日経産業新聞、化学工業日報
8月31日しんぶん赤旗
9月2日産経新聞
9月12日科学新聞
9月27日東京新聞

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