[ 農業生物資源研究所トップページ ] [ プレスリリースリスト ]


農業生物資源研究所ロゴマーク
お知らせ
平成21年8月20日
独立行政法人 農業生物資源研究所

洪水時に急成長して水没を回避できるイネ遺伝子を
「浮きイネ」から発見、その分子メカニズムも解明


名古屋大学・生物機能開発利用研究センター、九州大学、農業生物資源研究所、理化学研究所・植物科学センターの研究グループは、急激な洪水が発生しても水没し溺死することなく生存できる「浮イネ」の水没回避遺伝子を明らかにするとともにその分子メカニズムを明らかにしました。

イネが水没すると"エチレン"というガス状の植物ホルモンが発生し蓄積します。空気中に比べ、水中ではエチレンの拡散は1万分の1と小さいため、イネの中でエチレンガスが物理的に閉じ込められるためです。浮イネはスノーケル1(SNORKEL1)とスノーケル2(SNORKEL2)というエチレンに反応する遺伝子を染色体の中に持っています。イネの体内にエチレンが蓄積するとこれらの遺伝子が働き、イネの伸長のスイッチが入り、伸長が始まります。一方、通常の栽培イネはこれらの遺伝子を持っていないために、水没しても伸長できません。

私たちが食べている通常のイネは約8,000年の年月をかけて、ある野生のイネから栽培化されたと考えられています。この野生のイネの遺伝子を調べてみると、スノーケル1とスノーケル2の遺伝子を持っています。つまり、イネはもともと洪水に対応できる植物だったと考えられます。洪水が多発する場所で栽培化されたイネは浮イネ性を保持していますが、多くの栽培品種はこれらの遺伝子を持っていません。おそらく洪水のあまり起こらない場所で栽培されるようになったイネは、これらの遺伝子を保持する必要がなくなったと考えられます。また、これらの遺伝子を持ったイネは通常の栽培条件でも収穫時に背が高くなり、風雨で倒伏しやすいようです。人間が栽培するのに不適切なため積極的に除かれたのかもしれません。

今回の成果により、世界の洪水に苦しんでいる地域でのイネ品種育成が進み、収量の高い浮イネ品種の作出が期待されます。


予算:農水アグリゲノム・プロジェクトQTL遺伝子解析の推進H17-19
発表雑誌:2009年8月20日付けの英国科学雑誌「Nature」に掲載
The ethylene response factors SNORKEL1 and SNORKEL2 allow rice to adapt to deep water
Yoko Hattori, Keisuke Nagai, Shizuka Furukawa, Xian-Jun Song, Ritsuko Kawano, Hitoshi Sakakibara, Jianzhong Wu, Takashi Matsumoto, Atsushi Yoshimura, Hidemi Kitano, Makoto Matsuoka, Hitoshi Mori & Motoyuki Ashikari doi:10.1038/nature08258
問合せ: 名古屋大学 生物機能開発利用研究センター 教授 芦苅基行
電話番号:052−789−5202、電子メール:ashi@agr.nagoya-u.ac.jp
詳細情報:Nature 日本語版アブストラクトURL
http://www.nature.com/nature/journal/v460/n7258/fp/nature08258_ja.html
名大資料:http://www.nagoya-u.ac.jp/pdf/research/news/20090820_nubs.pdf?20090821
【掲載新聞】8月20日木曜日:産経新聞、中日新聞、日本農業新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞、8月24日月曜日:朝日新聞(夕刊)、9月3日木曜日:日本農業新聞、9月4日金曜日:科学新聞、平成22年6月21日月曜日:産経新聞

[ 農業生物資源研究所トップページ ] [ プレスリリースリスト ]