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 花粉症ってどうやっておきるの?
 花粉症を治すためには?
 スギ花粉症緩和米とは?
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 996年に最初の遺伝子組換え作物(GMO)が商業化されました。2005年では世界のGMO栽培面積は9000万haに達しています。この面積は日本の耕地面積の20倍の広さに相当します。栽培されているGMOは、農作物の生産性向上を目指したものが大部分ですが、食品としての機能性を高めたり、植物を医薬品の生産工場にしたり、よごれた環境をきれいにするような、新しいタイプの GMOの開発も進んでいます。いずれのGMOも、これまでの育種の手法では育成することはできないものです。安全・安心のために、GMOの作り方の改良研究や、遺伝子が拡散しない方策などについての研究も実施しています。

 こでは当研究所で実施している研究の一部を紹介します。また、参考のため、諸外国を含む各機関からだされている、GMOの安全性に関連する情報(リンク集参照)も併せて紹介しました。

 究例 スギ花粉症緩和米の開発研究
 現在、日本人の約15%にあたる1700万人もの人が花粉症だといわれ、その数は年々増加しています。さらに、花粉症予備軍と考えられる花粉に対する抗体を持っている人の率は、スギ花粉だけを取ってみても、60%近くになっていて、特に若い人に多いことが知られています。

 のホームページでは、多くの皆様方がもたれる疑問、花粉症とはいったいどんな病気なのか?花粉症を治すにはどうしたらよいのか?そして、農業生物資源研究所が開発を進めているスギ花粉症緩和米とはどんなものなのか?、について、お答えしていきたいと思います。
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 花粉症ってどうやっておきるの?

 粉症とは、スギやヒノキなどの植物の花粉が原因となって、くしゃみ・鼻水・目の炎症などのアレルギー症状をひき起こす病気です。




 たちの体には、免疫反応という、もともと私たちの身体が持っている防衛反応があります。免疫の役目は、まず、体の中に入ってきた細菌やウイルスなどの異物を、「自分とは違うもの」と見分けて排除すること、そして、異物が次にやってきた時にすばやく対応できるように、その異物を覚えておくことです。こうした異物を抗原(アレルゲン)といい、抗原と結びついて、抗原を排除する物質を抗体といいます。

 粉が鼻に吸入されると、花粉はもちろん異物ですから、上に書いた免疫のシステムが働きます。血液中のリンパ球(白血球の成分の一つ)は花粉を抗原として、それにあった抗体を作ります。この抗体は、肥満細胞にくっついて、次に同じ抗原が来た時にいつでも働けるような状態にスタンバイさせます。次に抗原が来ると、抗原は肥満細胞の持っている抗体にくっついて、肥満細胞からさまざまな炎症を起こす化学伝達物質を出させます。この化学伝達物質が鼻に働いて、くしゃみ、鼻水、鼻づまりを起こして、花粉を鼻の外へ押し出そうとするわけです。

 うした免疫反応は、身体にとって有害なものを排除するのというのが本来の目的ですから、私たちの体にとって、なくてはならないたいへん重要なものです。しかし、反応が過剰になり、たいして害のない異物に大きく反応してしまうのが、花粉症などのアレルギー反応です。

 れでは、多くの人を悩ませている花粉症を治す方法はないのでしょうか?
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  花粉症を治すためには?

 粉症の治療には、さまざまなものがあります。現在、花粉症の治療法として広く用いられているものには、「予防的治療」と「対症療法」とがあります。

 防的治療とは「初期療法」ともいわれて、花粉シーズンの少し前から症状を抑える薬(抗アレルギー薬)の服用を始め、そのままシーズン中も継続する方法です。シーズンに入り、花粉が飛び、症状がひどくなってからでは、薬は効きづらくなります。しかし、軽いうちに薬を使い始めると、花粉が多くなった時期でも症状をコントロールしやすく、そのシーズンの症状を軽くすることができます。一方、対症療法とはシーズンに入り、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状がでたとき、その症状そのものをやわらげる治療法です。花粉症は、毎年ほぼ同じ時期に起きますから、早目にお医者さんを訪ねて初期療法を行えば症状を和らげることができますが、広い意味での対症療法ですから完全な予防はできませんし、期間中、薬をずっと飲み続けなければなりません。花粉が少ないからといって飲むのをやめたり、飲み忘れたりすると、症状が悪化してしまいます。

 れでは、花粉症自体を治してしまう治療法はないのでしょうか?現在、「治癒をめざす治療」として実用的なものは「減感作療法」といわれているものです。「減感作」とは、先ほど説明した体の中にできてしまった花粉に対する抗体を減らしてしまい、過剰なアレルギー反応がでないようにするという意味です。具体的には、原因となっている抗原(ここでは花粉)を少しずつ増やしながら注射していく治療法で、簡単に言えば、徐々に抗原に慣れさせて、最終的にはアレルギーが起こりにくい体質に変えていこうというものです。治療自体には2〜3年間が必要ですが、対症療法とは異なって、唯一、アレルギーを治すことが可能です。スギ花粉症の人に対する有効率は約60〜70%といわれています。しかし、治療期間が長くかかること、注射量の加減の見極めが必要なこと、注射を受けるために病院へ通わなければならないこと、そして、まれに副作用がおこることから、必ずしも普及しているわけではありません。

 っと簡単で安全な花粉症治療の方法はないだろうか?こうした要望にこたえられる1つの可能性として、私たち農業生物資源研究所は遺伝子組換え技術を利用したスギ花粉症緩和米の開発に取り組んでいます。では、どうして、スギ花粉症緩和米は簡単で安全な花粉症治療方法になりうる可能性があるのでしょうか?
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  スギ花粉症緩和米とは?

 たちが開発を目指しているスギ花粉症緩和米は、簡単に言うと「毎日のご飯を食べることによって、スギ花粉に対する減感作治療法をしよう。」というものです。ご飯として食べることは注射に比べればはるかに簡単な接種方法ですし、また、長期にわたって何回も病院に通う必要もありません。薬と違って飲み忘れも少ないと思われますから、患者さんにとって負担の少ない治療法だと考えられます。そこで、私たちは遺伝子組換え技術を利用して、スギ花粉症緩和米の開発に取り組みました。

 ちろん、遺伝子組換えといっても、お米の中にスギ花粉を作り出すことはできません。そこで、私たちは、花粉が持っている抗原決定基(エピトープ)の部分に注目しました。エピトープとは、花粉の表面にあって、抗体が花粉を異物であると認識するために必要な部分のことをいいます。私たちのスギ花粉症緩和米では、いくつかあるエピトープの一つだけをお米の中で作らせることによって、体の中の抗体に花粉が入ってきたと錯覚させようとしたわけです。エピトープ一つだけでも抗体は認識することができますので、アレルギー反応を抑えることができます。また、複数のエピトープが体に入ってしまうことになる花粉全部を使う減感作治療法と比べると、一つのエピトープしか入れないスギ花粉症緩和米の方が、体に対しての負担や副作用が少なく効果の高い治療法となると期待されます。

 ピトープの正体は、10個から20個ぐらいのアミノ酸がつながったものです。私たちのスギ花粉症緩和米とは、このエピトープをお米の中で作らせるようにしたものです。

 たちは、このエピトープをお米の粒の中だけで、そして、花粉症に効果があると考えられる十分な量が作られるようにするための研究を進めてきました。スギ花粉症緩和米だけでなく、今後、遺伝子組換え技術を利用した新しい機能を持った作物を作っていくためには、必要なものを、必要なところだけで、そして必要な量だけ作ることができる技術を開発することが大事だと考えているからです。もし、お米以外の部分(例えば葉っぱなどで)でエピトープが作られても私たちは利用できません。また、せっかくエピトープができても、効果が出るだけの量が作られなければ、まったく意味がありません。私たちは、こうしたさまざまな点を考えながら、開発を進めています。

 でに、私たちは、お米の粒の中にだけ、花粉症を抑えるのに十分だと考えられる量のエピトープを作るイネを開発することに成功しています。マウスにこのお米を食べさせる実験を行った結果、普通のお米を食べさせているマウスよりも、花粉症を引き起こす抗体を70%減らす効果があることが確かめられています。こうしたことから、私たちは、今回開発したスギ花粉症緩和米がこれまでより簡便な花粉症治療法として役立つ可能性があると考えています。

 かし、これで研究が終わったわけではありません。現在、私たちは、このスギ花粉症緩和米の食品として、あるいは作物としての安全性を確かめる実験を行っています。食品として食べた時に毒性や発ガン性がないか、食べ過ぎても大丈夫かなどに関する研究を、医師の方たちと共同して進めています。また、作物として栽培する時に、他のイネや作物に影響を及ぼす恐れがないか、また、普通のイネと区別して流通させることが可能かなどについても、関係機関と共同して研究を進めています。

 うしたさまざまな研究を行い、そして、そのすべてにパスしたときに初めて、私たちは、このスギ花粉症緩和米を簡単で安全な花粉症治療法の1つとして、花粉症に悩む方にお届けできると考えています。
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