イネゲノム塩基配列と 新たな作物開発への挑戦


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コメは、世界の約50%の人々が主食としている主要穀物の1つである。しかし、近年の世界人口の増加による食料不足、また砂漠化や肥沃な土地の減少、さらには気候変動に伴う食糧生産の減少等が世界レベルで大きな問題となっている。これらの課題を解決するための方策の1つが、最先端の科学技術を駆使し、イネが持っているすべての遺伝情報を明らかにし、その情報を最大限に利用して新しいイネや作物を開発することである。

イネを対象にした、新たな視点からのゲノム研究が、1990年代に入り主要な国々で開始された。わが国では農林水産省が1991年に、イネゲノムの構造と機能を明らかにする目的で「イネゲノム研究プログラム」を開始し、イネゲノム研究を本格化させた。1998年からは、イネの遺伝現象の本質を明らかにする目的で、「全塩基配列の完全解読」と、その成果を利用した「イネ有用遺伝子の単離および機能解明」「DNAマーカーを用いた効率的選抜育種技術の開発」が農林水産省の大型プロジェクトとして開始された。これと並行し、イネ品種「日本晴」ゲノム全12本の染色体の塩基配列解読が、国際イネゲノム塩基配列解読プロジェクト(IRGSP)に参加した10カ国・地域の分担・協力により行われた。2004年12月に完全解読は終了し、イネゲノムの95%の塩基配列が明らかになった。わが国はコンソーシアムを主導し、12本の内6本、塩基数にして55%の領域の解読を担当し、作物では初めてのゲノム塩基解読に大きく貢献した。

全ゲノム塩基配列情報が得られたことで、イネの遺伝学はもとより生理・生化学的研究も新たな時代を迎えた。2005年から、農林水産省はアグリ・ゲノム研究の総合的な推進プロジェクト」として、新たに「多様性ゲノム解析研究」、「QTL遺伝子解析の推進」および「ゲノム育種技術の開発と実証」の3つのプロジェクト、2008年から新農業展開プロジェクトを開始した。これらのプロジェクトでは、解読された「日本晴」全ゲノム塩基配列情報の高度利用を目的にしており、多くのイネ近縁野生種・栽培種をゲノム情報によって整理し、栽培イネの成立過程を解明して、遺伝資源を効率的に利用するための基盤情報を得ることや、イネの農業上重要な形質を支配する様々な遺伝子を単離して機能を解明すること、イネの塩基配列情報をムギ類のゲノム解析等に利用するための基盤研究が行われた。2013年からは、これまでのゲノム研究の成果を活用し、ニーズに合わせた多様な農作物新品種を速やかに、かつ継続的に開発するために、ゲノム情報を活用した農畜産物の次世代生産基盤技術の開発プロジェクト」が開始され、この中でイネゲノム情報は基礎研究と応用研究両方で必須な基盤として利用されている。ここでは、イネゲノム研究がこれまでに生み出した研究成果と現在の取り組みを紹介する。

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